春うらら

□第六話
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ドアベルを鳴らしつつ店内に入ると、入り口付近で赤髪さんがウェイトレスのお姉さんと一緒に待っていてくれた(「おっせーよ」「すすすみません」)。

席に案内してもらい、メニューも見ずに注文する。

「バケツプリンアラモード一つ!あと、この券使いたいんすけど」
「はい。かしこまりました」

…ずっと赤髪さんが割引券持ってたのか。いや、いいけどね。

このお店には初めて来たので、ついキョロキョロしてしまう。内装とか小物は可愛らしいのにシックな雰囲気で落ち着いた店内だ。
良い感じのお店だなと思いながら、向かいに座った赤髪さんに視線を向けると、ニカッと笑いながら話しかけてきた。

「バケツプリン楽しみだな!」
「そうですね」
「食べるからには絶対30分で食べきるぞ!気合い入れて食えよ」
「はい!頑張ります!」
「よし!…てか、さっきからなんで敬語なんだよ。同級生なんだからやめろって」
「あー…まぁ、そのうちやめます」
「…お前がいいならいいけどよ」

最初は頭の色で不良かと思いビビって敬語だったが、今は自然に使っている。赤髪さんとは敬語の方がなんとなく話しやすいのだ。

「ところで、お前名前は?何組?」
「1-E。名無しの 名無しです」
「名無しのだな!俺は丸井 ブン太!1-Bだ。シクヨロ☆」
「(シクヨロ…)…丸井さんですね」
「……お前ってさ外部受験生?」

またこの質問か。なんなんだ。そんなに私は外部生っぽいか。
若干イラッとしつつ「そうですよ」と答える。

「ふーん。(だからキャーキャー言わないんだな)」
「……丸井さんはこのお店、頻繁に来るんですか?」
「ん?…おう!んーと、…このプリンとこっちのロールケーキが好きで良く食いに来るぜ」
「へー。ロールケーキも美味しいんですね」
「うまいけど、やっぱプリンが別格だな」

メニューを開きつつ、オススメを教えてくれる丸井さん。よほど甘いものが好きなようで、この他のケーキ屋さんにもよく行くらしいが、ここのプリンが一番だと絶賛していた。

ちなみに、私たちが今から食べるバケツプリンアラモードは、幼稚園児が砂場で遊ぶときに使うような小振りなバケツ程度のプリンが3つ、普通のプリンが5つ、その他にてんこ盛りの生クリーム・大きくカットされたフルーツ・三種類のアイスクリーム(コーン付き)・一口サイズのケーキが数種類・シュークリームが数個で作られているらしい。量が半端じゃない。
メニューに乗っていた写真を見た瞬間、一人で来店しなくて良かったと思った。
丸井さんには感謝しなければ。一人で頼んでいたら確実に注目を浴びてたし、完全に胸焼けになっていただろう。
………………いや、注目は今も浴びてるか……。丸井さんのイケメンっぷりに店内の女の子たちがさっきからこっちをチラチラ見ている。
丸井さん本人は気付いていないのか、興味がないのか、どっちかはわからないが無関心なようだ。
周りなんかそっちのけで、嬉々として最近ハマッいるコンビニのお菓子の話をしている。私もオオスメのお菓子と新商品のアイスの話をした。


それからしばらくしてバケツプリンアラモードが運ばれてきた。
メニューの写真より遥かに存在感が凄い。デカイとかじゃなくて重い雰囲気だ。スイーツが出す雰囲気じゃない。

「こちらを今から30分以内に完食した場合は代金無料にさせて頂きます。それではスタート!」

ウェイトレスのお姉さんのかけ声とともに勝負が始まった。すぐにスプーンを手に持ち、プリンをすくう。一番始めに食べるのは丸井さんが絶賛しているプリンからだと決めていたのだ。
ぱくり、とプリンを口に含んだ瞬間美味しさの余り固まってしまった。
ナニコレ。美味しすぎるんですけど。卵の味がしっかりと残りつつバニラエッセンスがいい甘さを出している。キャラメルもほろ苦くまるで「おいっ!美味いのはわかるけど口動かせ!時間ないんだぞ!?」

美味さの余り脳内でぶつぶつと感想を漏らしていたら怒られてしまった。
申し訳ない、とスプーンを持っていない方の手で謝りつつ、手と口を動かす。それからは一度も止まることなく(というか、美味しいので止まらない)食べ続けた。
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