春うらら

□第八話
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「ほら、タオル使ってくれ」
「あ、すみません。ありがとうございます」

お礼を言って、ありがたくタオルを使わせてもらう。その間、丸井さんが僧侶の人(たぶん名前?はジャッカルさん)に、替えのジャージがあるか聞いてくれたが、持っていないようだった。
やはりダッシュで家に帰るのがベストだろう。そう思い、二人に声をかける。

「…あの私、学校のすぐ近くに家があるので大丈夫です。ダッシュ帰りますから」
「いや、でもよ…」
「ほんとに大丈夫ですから」

申し訳なさそうにする丸井さんと僧侶さん。
二人の水遊びの被害にあった形(植え込みのところにある水道で遊んでいたそうだ)だが、もとはと言えば私がテニスコートの横を通ったことが原因なのだ。それにタオルも貸してもらったし、あまり気にしないでほしいと二人に伝えていると、後ろから声をかけられた。

「何をしている」
「あ、柳!…いや、これは…」

丸井さんが少ししどろもどろになっている。誰だろう、怖い人なのかと思い振り返ると、新入生代表の挨拶をしていた方が後ろに立っていた。
…デカイ。身長何センチあるんだ。髪の毛さらさら。それに、この暑さの中なんて涼しげな顔立ち。
私がそんなことを思っていると、丸井さんから事情を聞き終えた柳さんが、

「うちの部員が迷惑をかけてしまったようだな。すまない。俺のジャージで良ければ替えがある。それに着替えると良い」

とありがたい提案をしてくれた。頭をさげてお礼を言おうとした時、ふいにハナちゃんの言葉がよぎった。

「テニス部の何人かは、ファンクラブがあるみたいだよ」

ファンクラブ…。…怖い。もし柳さんにファンクラブがあったら、ジャージを借りた私を目の敵にしそうじゃないか?あぶない。危険だ。
タオルを借りて、その上、新入生代表の挨拶をするほど人望のある人のジャージを借りたとなれば、ファンクラブに目をつけられるのは必須。それは嫌だ。ありがたく着替えを借りるつもりだったが、変更しよう。
さげかけていた頭を上げて、丁重にお断りする。

「大変ありがたい提案なのですが、遠慮させて頂きます」
「え?!なんでたよ!せっかくなんだし借りとけよ」
「そうだぞ。そのままだったら風邪ひくぞ」
「タオルを借りた上に、ジャージまで借りれないですから」

驚いた顔の丸井さんと僧侶さん。柳さんはじっとこちらを見つめてくる。うう、なんだか観察されている気分だ。

「いや、ほんと大丈夫なんで。タオルは後日洗ってお返ししますね。ご迷惑おかけしました。では、私帰ります」
「あ!おい、名無しの!」

丸井さんが声を上げていたが無視して、ダッシュで校舎へ戻る。
まくし立てるようにお礼を行って逃げてしまった。だって、柳さんの視線がちょっと怖かったんだ。あー、丸井さんと僧侶さんに悪いことしたかな。あとで丸井さんにメールでもしよう。
そんなことを考えていると、部室に到着。びしょ濡れの私を見た部員たちはとても驚いていた。

「うわ、名無しちゃん何事?!」
「大丈夫か?!」
「え、イジメ?!」

など、口々に言われた。簡潔に事の顛末を話して、パシリとしての務めを果たせていないこと、今日は帰らせてほしいことを伝える。
先輩たちが「風邪かないうちに早く帰れ。パシリはまた今度で良い」と言ってくれたので、ありがたくダッシュで帰宅。

家に着いて、もう二度と近道の為にテニスコートの横を通らないようにしようと思いつつ、お風呂に入った。
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