春うらら
□第九話
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9月。夏休みも終わり、徐々に涼しくなってきた。
もうそろそろ体育祭や文化祭のシーズンだなあと思いながら、お弁当を持ってタラタラと歩く。
いつも一緒にお昼を食べているハナちゃんが、クラブの集まりがあるとかで、一緒に食べれなくなったため、たまには外で食べてみようと思い、中庭まで出てきたのだ。
初めて来た中庭をキョロキョロ見渡し、ベストスポットを探す。花壇が綺麗に整備されてて見応えのある中庭だ。
中庭の少し奥まったところにベンチを見つけたので、そこに座ることにする。
なかなか良いポイントだ。ちょうど木陰だし、ここならあんまり人目につかなそう。よし、お弁当食べよう。今日は炊き込みご飯のおにぎりなんだよね。とウキウキしながら、お弁当を開けていると、後ろの植え込みの、さらに後ろの方から、なにやら話し声が聞こえてきた。
どうやら痴話喧嘩中らしい。男の子の声は小さくてほとんど聞こえないが、女の子の声がなかなか大きくて少しだけ、漏れ聞こえてくる。盗み聞きをするつもりはないのだが、ついつい声のする方へ意識が向いてしまう。
「…でしょ?!……どっちが…………ドイ!」
「…さはる……他の……ヤッ………サイテー!」
バチン!という音と、バタバタと走り去る音が聞こえる。
あー、痴話喧嘩の末、男の子が殴られて女の子が走って消えたんだな、とぼんやり思っていると、ガサリと後ろの植え込みから人が出てくる音がした。
気まずい…。痴話喧嘩後の、しかも、殴られた後の人と対面するとか気まず過ぎる。早く立ち去ってくれ。と思いながら、黙々とおにぎりを食べていると、何やら横の方から視線を感じる。
…なんだ?痴話喧嘩を聞かれたことがそんなに嫌だったのだろうか。安心して良いよ。誰にも言わないから。だから早く立ち去ってほしい。と、視線を合わせず、心の中で思っていると、
「プリ、」
妙な単語を発してきた。
……………え?プリ?意味がわからない。なんだ?なぜ私を見て、そんな単語を言ったんだ。プリってなんだ。何か意味があるのか。
困惑しながら、ちら、と横を見るとシルバーヘアーのイケメンな男の子がこっちを見ていた。
初対面の人だ。しかも不良っぽい。頭が銀色だ。似合ってるけど、すごい色だな。丸井さんの赤色にも驚いたけど、銀色のインパクトすごい。イケメンは何色でも似合うんだな。と、ついガン見していると今度は、
「ピヨ」
と鳴いた。
また困惑する。プリとかピヨとか、意味がわからない。まだ「見てんじゃねぇよ!」的な事を言われた方がマシだ。なんなんだ。彼は私に何か伝えたいのだろうか…。…いや、変な人には関わらないようにしよう。うん。それが一番だ。
頭の中で結論を出し、視線を彼から逸らす。そして、何事もなかったかのように、再度黙々とおにぎりを食べる。
「…お前さん、ブンちゃんの知り合いじゃろ?」
シルバーヘアーのプリピヨ星人が今度は話しかけてきた。
関わらないようにしようと思ったところなのに…。しかし、なぜ私が丸井さんの知り合いだと知っているんだ?
少し驚いてプリピヨ星人を見る。
「ブンちゃんとお菓子の情報交換しとるじゃろ?」
なぜそんなことまで知っているんだ。…怖い。この人怖いんですけど。なんなの。一体何がしたいの。
ビビリながら返事をする。
「…はい、そうですけど…それが何か…?」
「……(やっぱり。ブンちゃんと写メに写とったやつじゃ)……」
「………………」
「……(ブンちゃんは変わったやつじゃって言うとったが、普通のやつにしか見えんの)………」
気まずい。ほんとになんなんだ。話しかけておいて無視か。失礼な人だ。私も無視したいが、如何せん小心者なので、不良かもしれない人を簡単には無視出来ない。
「………あの…」
「プリ、」
また妙な単語を発してきた。
あー、この人、私と会話する気がないんだな。話す気がないなら立ち去れば良いのに。と、若干イラッとしていると、プリピヨ星人のお腹が、ぐるるるる、と鳴いた。