春うらら

□第十一話
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体育祭が終わり、一息つく間もなく文化祭の準備が始まった。なかなかハードなスケジュールだ。もう少し間隔をあけて行事を決めればいいのに。というか、文化祭か体育祭どちらか一つにすればいいのに。

「まち針たりなーい」
「あ、あたし持ってる!」
「ガムテープ切れた!」
「安藤が今貰いに行ってる」

わいわい、がやがや。文化祭の準備でみんな忙しそうだ。かくゆう私も衣装をチクチクと裁縫中。

文化祭で1-Eは小芝居喫茶をやることになった。「小芝居ひとつ!」と注文が入ると、童話や昔話の名シーンを二人一組で芝居する。笑いを求めてセリフは方言で言う決まりだ。
たとえば桃太郎だと「桃太郎はん。桃太郎はん。腰につけとるきびだんご一つワシにくれへんやろか?」「タダではやられへんなあ。一緒に鬼退治してくれるんやったらええで」「桃太郎はん。悪いお人やわあ」という具合だ。
ノリが良いクラスなので、みんな小芝居にノリノリだ。

明日が文化祭なのでみんな部活を休んで準備に励み、男子は教室を喫茶店風に飾りつけ、女子はウェイターの衣装作りと、作り置きしても大丈夫なお菓子を作っている。

「……あれ?」
「どうしたの名無しちゃん」
「まさかミスった?」
「いや、…布がもうないんだよね」
「あ、ほんとだ」
「ちょっと取りに行ってくる」
「ありがとー!ついでに刺繍糸もお願い」
「りょーかーい」

衣装で使う布が無くなったので、被服室まで取りに行く。学校が必要分の布やら糸やら段ボールやらガムテープやらをまとめて準備してくれているのだ。さすが私学。いちいち買いに行く手間が省けて助かる。

被服室で布と糸を貰って教室に戻る。少し貰い過ぎたかもしれない。一人で持つには少し重いし前が見えづらいなと、若干ふらつきながら歩いていると後ろから声をかけられた。

「名無しの?大丈夫か?」
「え?…あ、ジャッカルさん」
「重そうだな。持つぞ」
「いやいや、大丈夫です。持てますよ」
「でも、ふらついてるし」
「…あはは、…」

笑って誤魔化そうとしたが、結局ジャッカルさんが半分以上持ってくれることになった。優しい。本当にジャッカルさんは優しい。

「すみません。ありがとうございます。助かります」
「ははは、良いって」
「ジャッカルさんも準備で忙しいんじゃないですか?」
「暇ってほどではないけどな。多少なら寄り道しても大丈夫だ」

なんて優しいんだ。やっぱり僧侶か何か聖職者系を目指しているんではないだろうか。
ジャッカルさんの優しさに感動していると、また後ろから声をかえられた。

「ジャッカル」
「ん?…あぁ、柳か。なんだ?」
「精市が探していたぞ、部室に来てほしいそうだ」
「そうか、わかった」

どうやらジャッカルさんに用事が出来てしまったようだ。このまま手伝ってもらうのも申し訳ないな。ジャッカルさんの用事を優先してもらおう、と思い声をかける。

「ジャッカルさん、私一人で運べますからどうぞ部室に向かってください」
「え?…いや、でもな…」
「早く行かないと相手の人が怒ってしまうかもしれないですよ」
「うっ…。いや、でも、」
「本当に大丈夫です。ここまで運んでくれて助かりました」

よし、ここまで言えばジャッカルさんも折れるだろう。
もともと一人で運ぶ予定だったんだし、ジャッカルさんが気にする必要はない。だから早く荷物を渡して行ってくれ、と目で訴える。
すると、今まで私達を眺めていた柳さんが声をかけてきた。

「ジャッカルの代わりに俺が運ぼう。それなら問題ないだろう」
「え、」
「あぁ、そうしてくれると助かる。サンキューな、柳」
「ああ」
「最後まで伝えなくて悪いな名無しの。じゃぁな」
「あ、え、あ、ありがとうございました!」

突然の展開にオロオロしながら、ジャッカルさんにお礼を言う。そして、柳さんに向き直って再び「自分で運ぶ」と言おうとしたが、柳さんはもう歩き出していたので、横に並んで歩きながら声をかける。
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