春うらら

□第十三話
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部活が終わり、人が少なくなった校舎を静かに歩く。夕焼け色の廊下を歩いていると、窓の外に丸井さんを見つけた。テニスバックを下げて歩いている。どうやら丸井さんも今から帰るようだ。こちらの視線に気づいた丸井さんが近寄ってきたので、廊下の窓を開ける。

「見てないで声かけろよ」
「いやー、わざわざ窓を開けてまでしなくても良いかなと思って…」
「名無しのって冷たいやつだよな」
「そんなことないですよ」
「いや、そんなことある」
「ないです」
「ある」

二人で不毛な言い争いをしていると、ぐるぅぅぅぅぅ、と丸井さんのお腹が鳴った。結構な音量だった。少し恥ずかしそうにお腹を押さえる丸井さん。

「……お腹を空いてるんですね」
「…………おう」
「……すみません、何も持ってないんです」
「…………そっか…まぁ、帰ろうぜ」
「…そうですね」
「下駄箱で集合な」

と、言い残し歩いていく丸井さん。ふむ、どうやら一緒に帰ることになったらしい。私も窓を閉めて下駄箱へ向かう。

靴を履き替えて、外に出ると丸井さんがすでに待っていて携帯をいじっていた。近寄って声をかける。

「すみません、お待たせしました」
「ん?おう。ちょ、これ見てみ」
「?なんですか?」

丸井さんの携帯を見せられたので、覗いてみる。画面には美味しそうなラーメンの画像が写っていた。醤油ラーメン。煮卵とメンマとチャーシューとネギ。あー、美味しそうだな。こんなの見てたら余計お腹空きますよ、と丸井さんに言うと、クラスの男の子にここのラーメンが美味いとオススメされたそうだ。へぇー、と返事をしてもう一度画面を見る。…あれ?このラーメン(ドンブリとかレンゲとか)どっかで見たことある……あ。

「私このラーメン食べたことありますよ」
「マジ?!」
「はい。友達に一度奢ってもらいました」

そうなのだ。いつぞやハナちゃんが抜き打ち検査の時のお詫びとしておごってくれたことがある。うん、あそこのラーメン美味しかったなあ、あとチャーハンも美味しかったし。と色々思い出していると丸井さんが食い付いてきた。

「どうだった?美味かったか?」
「はい。スープと麺が良い感じで、個人的には煮卵が絶品でした」
「うっわぁー!食いてー!」
「あはは、学校から割りと近いところにありましたよ」
「……よし、今から行くぞ!」
「え(本当にいつも突然だな丸井さんって)」
「なんだよ」
「いや、なんでもないです」
「よし、んじゃ、行くぞ」

歩き出す丸井さんに置いていかれないように着いていく。っていうか、場所とか知ってるんだろうか。聞かれたらどうしよう。ラーメンの記憶はあるけど、道順とか覚えてないよ。と心配していたが、携帯を駆使してナビゲーションのようにしていた。すごい。ハイテクだな。私は未だにメールと電話ぐらいしか出来ません。

校門を出てから10分ほど歩いたぐらいで、ラーメン屋さんが見えてきた。良かった、営業中だ。これで定休日だったら目も当てられない。ウキウキモードの丸井さんとラーメン屋さんの暖簾をくぐって中に入った。
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