春うらら

□第十四話
1ページ/1ページ

キーンコーンカーンコーン……

一時間目の授業が終わり、トイレに行こうと廊下を歩いていると「幸村くんカッコイイ〜!」「儚げな雰囲気が良いよね」ときゃいきゃい言い合う女の子たちとすれ違った。
イケメンかつ儚げって、どんなんだそれ。中性的な人なんだろうか。と思いつつトイレに入る。用をすませて、廊下に出ると近くの教室に女の子が群がっていた。
なにかあったのだろうか。ちょっと好奇心が湧いたので近寄ってみる。教室のプレートには1-Bと書いてあった。
1-Bって丸井さんのクラスだったよね。と思っていると教室から、すっごい綺麗な人が出てきた。あまりに綺麗だったので二度見してしまう。
艶のあるウェーブの髪、シミひとつないと思われる肌にパサパサの睫毛。ズボンを履いているから男の子だとわかったが女の子に見えそうなほど綺麗な人だった。お人形さんみたい。女の子でもあそこまで綺麗な人はなかなか居ないよ。
すごい人がいるもんだなあ、と見送っていると女の子たちが「幸村くん!これ調理実習で作ったの、良かったら食べて」「幸村くん!私も!」「私も!」と詰め寄っていた。そんな女の子たちに嫌な顔一つせず「ありがとう」と素敵な笑みで受けとる男の子。
おー…!見た目だけじゃなくて性格もいいんだ。王子様みたい。普通の今時の男の子だったら、あれだけの女の子に一気に詰め寄られたら嫌な顔とか、天狗になったりしそうなのに……

「名無しのじゃん。何してんの?」
「ぎゃっ!……丸井さんか…ビックリしたじゃないですか」
「………色気のねー声だな」
「本当に驚いた時は可愛い声なんて出ないんですよ」
「へぇー」

王子様に感心していると、いつの間にか後ろに丸井さんが立っていた。全然気が付かなかった。ビックリさせないでほしい。
丸井さんも、両手にカップケーキやらクッキーが入った袋を持っていた。女の子たちから貰ったそうだ(聞いてもいないのに自慢してきた。天狗になってるよこの人)。そういえばこの人もイケメンだったな。忘れてた。

「んで、何みてたんだ?」
「王子様を見ていました」
「…は?」
「え?」
「…お前頭大丈夫か…?」
「リアルなトーンで言わないでください。さすがに傷付きます」

ドン引き顔の丸井さんとしゃべっているとチャイムが鳴った。まずい、授業に遅れる。丸井さんに「それじゃ」と挨拶し、ダッシュで教室に戻る。まだ先生が来てませんように…!

「おっかえりー名無しちゃん。遅かったね」
「うん、ちょっとね。先生は?」
「自習にするって言ってプリントおいってった」
「そっか。良かった」

教室に入り自分の席に着く。なんだ。自習だったらダッシュすることなかったなあ。

「はい、コレ。自習のプリント」
「あ、ありがとう」

ハナちゃんからプリントを受けとる。うーん。英語かあ。難しそうだな。まぁ、基本的に得意な科目はないから何でも苦手なんだけど。
カチカチとシャーペンを鳴らし、こちらを向いてプリントに取り組むハナちゃんに話しかける。

「ハナちゃん」
「んー?」
「私、さっき王子様見かけたんだ」
「…………名無しちゃん」
「なに?」
「今さらメルヘンキャラに変更は無理があると思うよ」
「違うわ失礼な」

引き気味のハナちゃん。私の言い方が悪いのだろうか、と思いながら王子様の容姿をこと細かに説明すると「それはテニス部の部長の幸村精市くんだよ」と教えてくれた。
あんな王子様みたいな人が部長で、他のテニス部員もイケメンとかすごいな。イケメンばっかり。イケメンキングダム。
しきりに感動していたらハナちゃんに「今さらなにいってんの。早くプリント終わらせようよ」と言われてしまった。確かに早くしないと授業時間内に終わらないな、と気を引き締めて取りかかる。

最初のお喋りのせいで、プリントが完成したのは授業が終わるギリギリ前だった。
ハナちゃんと「間に合って良かったね」と言い合っていると佐竹くんが「俺、白紙のままだ」とボソッと溢した。それを聞いた柳生くんが慌てて佐竹くんに自分のプリントを写させてあげていた(「真面目にやりたまえ佐竹くん!」「うん。ごめん、ありがとう」)。

すっかり佐竹くんの世話係になっている柳生くんに心の中で、お疲れ様です、と呟きながら、次の選択授業の準備をして、教室を出た。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ