春うらら

□第十五話
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12月に入り、だいぶ寒くなってきた。マフラーと手袋と耳当てとホッカイロ。この重装備がすっかり定番の通学スタイルになっている。自分の装いが真冬モードになったのと同じく、お弁当箱も冬モードにシフトチェンジした。保温性バツグンのお弁当箱で、ホカホカのご飯とおかず、さらにはお味噌汁まで食べれる優れものだ。今までの普通のお弁当箱とは全然違う。お昼が断然楽しみになった。


「あれー名無しちゃんどこいくの?」
「良かったら、一緒にお昼食べない?」
「あー、ごめん。部室に用事あるんだ。また誘ってー」

クラスの子たちに声をかけられつつ、教室を出る。
ハナちゃんが部活の集まりでお昼を一緒にとれなくなったので、自分の部室で食べることにしたのだ。
部室には先輩が家から持参した電気ストーブがあるのでそれが目当てだったりする。暖房だけじゃ寒いので電気ストーブをつけて、ぬくぬくしながらお弁当食べるんだ。うへへ。


お弁当とお茶が入った手提げ袋を持ち、部室に向かって歩いていると、目の前からビニール袋を持ったプリピヨ星人が歩いてきた。
うわー…。猛烈に避けたい。回れ右で引き返したい。でも前回避けようとしたら声(厳密には鳴き声)をかけられたしな…。ここはスルーで普通に通りすぎるのが無難か。とぐるぐる考えていると、プリピヨ星人がこちらに気付いたようだ。視線をビシバシと感じる。だが、ここで視線を合わせてしまうと負けなので、じっと自分の足元を見ながら歩く。
あと数歩ですれ違う、というところでプリピヨ星人が話しかけてきた。

「なぁ」
「……」

無視した。というか、聞こえなかったフリをした。この時間帯にプリピヨ星人に関わるとかお弁当を奪われる予感しかしない。そんなの嫌だ。
先程より歩くペースを上げてプリピヨ星人とすれ違う。

「無視するなんてひどいのぅ、名無しちゃん」
「え」

なん……だと………。名前呼びだと…!?なんで私の名前知ってるんだよ。丸井さんが教えたのか?それとも柳生くんか?
驚いて立ち止まり、口許をひきつらせながら声を出す。

「………え、なんで……?」
「ブンちゃんから聞いたナリ」
「………あ、そうですか…」
「……それ弁当?」

プリピヨ星人が、私の手提げ袋指差してきた。
ヤバい。とられたくない。と思うあまり、つい反射的に手提げ袋を背後に隠す。
そんな私の行動にニヤリと笑うプリピヨ星人。怖い。その顔怖い。悪人顔。

「どこで食べるんじゃ?」
「言いません」
「中庭は寒いから室内が良いナリ」
「あなたの意見は聞いてません」

ついてくる気だ。そしてお弁当を奪い取る気だな。どうしよう。ダッシュで逃げようか…。…………いや、将棋部がテニス部に走りで勝てるわけない。っていうか、なんで私のお弁当を狙うんだ。プリピヨ星人ほどのイケメンだったら、お弁当の一つや二つ、差し入れがあるだろう。それ食べればいいのに。

「……………なんで私のお弁当を狙うんですか……」
「狙うとか…人聞き悪いのぅ」
「じゃぁ、狙ってないんですか?」
「一緒にご飯を食べたいと思っとるだけ」
「『私』と食べたいんじゃなくて、『私のお弁当』を食べたいだけでしょう」
「プリ、」
「他の人のお弁当食べたらいいじゃないですか」
「美味そうに見えんもん」

えええええ。なんじゃそれ。なんだか脱力してしまった。美味しそうに見えないって…。失礼な人だ。
ため息をつきながら、口を開く。

「………私の食べる量が減るからあげたくありません」
「ブンちゃんの言った通り、食い意地はっとるな」

丸井さん…!食い意地なら丸井さんもお互い様だよ!と心の中で文句を言っていると、プリピヨ星人が自分が持っていたビニール袋を差し出してきた。
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