春うらら

□第十五話
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「?」
「あげる」

ビニール袋を受け取って中を見る。………こ、これは購買の数量限定クリームコロッケパン!こっちはカツサンド!クッキーシュークリームもある!え、なにこれ凄い。しかも出来立てのようで全部暖かい。

「これ、購買のレア商品ばっかりじゃないですか!しかも出来立て!」
「さっきジュース買った時に購買のおばちゃんがくれた」
「………(おばちゃん完全に贔屓してるよね)」
「俺いらんから、やる」
「え」

えええええ!?くれるの!?本当に!?ビックリしてプリピヨ星人の顔をガン見する。すると、プリピヨ星人はニヤリと笑って「弁当くれる気になったかのぅ」と言ってきたので「……良いですよ」と返した。くそ、なんか負けた気分だ…。いや、プラスマイナスゼロだよね。うん。


そのあと何故か成り行きで、プリピヨ星人とお弁当を一緒に食べることになった(「え、一緒に食べる意味あるんですか?」「プリ、」「一人で食べて下さいよ」「名無しちゃんひどい。もう俺ら友達じゃろ?」「いや………それは…」)。
将棋部部室まで移動して、合鍵で部屋に入る。暖房をつけて電気ストーブをつけると、さっきまで物珍しげにキョロキョロしてたプリピヨ星人がストーブに張り付いていた。

「いいもん持っとるのぅ」
「先輩の私物ですけどね。好きなだけ使えって言ってくれたので、ありがたく使ってます。てか、椅子に座って下さい」
「ピヨ」

プリントやら将棋の駒やらが散らばった机を綺麗にして、お弁当を広げる。すると、向かいに座ったプリピヨ星人がやたら感心していた。

「この弁当箱凄いのぅ。ホカホカじゃ」
「でしょ?保温性バツグンなんです」

いただきまーす、と手を合わせてクリームコロッケパンにかぶりつく。うー…!美味しい!クリームがトロッとしてて、パンとからみあうと絶妙!
予想以上に美味しかったので、ニヤニヤしてしまう。

「…前も思ったけど、美味そうに食べるんじゃな」
「?そうですか?」
「うん」
「………本当に美味しいから仕方ないんですよ」
「ふーん」

話しかけて来るプリピヨ星人に返事をして、二口目を食べる。
そういえば昔からご飯を食べると「美味しそうに食べるね」って言われてたっけ。でも普通みんな美味しい物食べたら笑顔になるよね。と思っていると、プリピヨ星人がお味噌汁にやたらと感心し始めた。

「名無しちゃん…!」
「はい」
「味噌汁美味い…!」
「おー、それは良かった」

プリピヨ星人も美味しそうにお味噌汁をすすっていたので、ちょっとだけ笑ってしまった(「ぷっ」「?何笑ってるん?」「いえ別に」)。

なんだかんだとお喋りしつつ、二人揃ってお昼を完食した。ごちそうさまでした。と、手を合わせているとプリピヨ星人が見つめてきた。……なんだ。言いたいことがあるなら言えと、目で促す。

「名無しちゃん」
「なんですか」
「俺の名前知っとる?」
「仁王くん、でしょう?」
「下の名前は?」
「………………すみません。知りません」
「雅治じゃ」
「まさはるくん」
「まーくんって呼んでも良いぜよ」
「いえ、それは結構です」
「プリ、」

なんだか懐かれてしまった気がしないでもない。初対面でお弁当を半分奪われ、二回目はガン見され、三回目でこれだ。なんか、野良犬にエサあげたら懐かれたって感じだな。

「ていうか」
「?」
「なんで、名無しちゃん、なんですか?」

ずっとひっかかっていたのだ。丸井さんとか柳生くんとかジャッカルさんは全員名字呼びなのに、なぜ名前呼び。男の子名前を呼ばれる経験少ないから、むず痒いんですけど。

「その方が嫌がるかと思って」
「嫌がらせかよ」

特に理由はないようなので、むず痒いからやめて欲しいと言ったが拒否された(「やめてください」「嫌じゃ。面白いから」「………」)

そのあと、プリピヨ星人がうるさいのでメールアドレスを交換し(「ブンちゃんだけずるいナリ」「意味がわかりません」)、お昼休みも終わりそうな時間だったので、お弁当を片付けて教室に戻ることにした。
電気ストーブと暖房を消して、鍵をかける。プリピヨ星人が「また弁当食べたいナリ」と言ってきたので「物々交換なら良いですよ」と答えて、別れた。

なぜこんなに懐かれたんだろう。お弁当の味がよほどツボに入ったんだろうかと思いながら、教室に戻った。
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