春うらら

□第十六話
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プリピヨ星人、もとい仁王さんに妙に懐かれて二週間ほどたった。お弁当の物々交換はあれ以来していないが、メールが頻繁に来る。一日に一通は来る。暇なのだろうか。ちなみに今日は『ブンちゃんのチューインガム、ミント味にすり替えたナリ(´∀`)』と来た。仁王さんはかなりのいたずらっ子らしい。


「あ!おーい!名無しの!」
「?」

放課後、部活が終わって帰ろうとしていると丸井さんに声をかけられた。なんだか怒ってる雰囲気だ。うーん、何かしたっけ?

「…どうしたんですか?」
「ミント味以外のガム持ってねぇ?」
「…………すみません、持ってないです」

どうやら仁王さんに愛用のガムをすり替えられて、かなりイライラしているらしい。ガムが無いとイライラするとか完全に中毒者だな。と思いながらポケットから飴玉を取り出して、丸井さんに差し出す。

「ガムはないですけど、飴で良かったらどうぞ」
「…飴か。仕方ねぇ……コレで我慢するか」
「………別に返してくれて良いんですよ?」
「冗談だって!サンキューな」

ニヒッと笑いながら飴を口に放り込む丸井さん。愛用のガム>ぶどう味の飴>ミント味のガム、らしい。
「なんでそんなにミント味嫌なんですか?」と聞いたら「スースーしてるだけで美味くない」と言っていた。子供の味覚だなあ。


「そういや、最近仁王と仲良くなったんだってな」
「え、あー、まぁ、そうですね」
「……なんだよ、その微妙な感じ」
「いや、仲良くなったっていうのかな?と思って」
「え、仲良くねぇの?」
「いや、うーん…。………喋ったりメールするようになりましたけど………仲良いのかコレ?」
「喋ったりメールしたりすれば十分だろぃ」
「うーん。そうなんですかねえ…」
「………。そういや仁王が、名無しちゃんって呼んだら一瞬嫌そうな顔するから面白い、って言ってたぞ」
「…………仁王さんにいくら止めてって言っても、ニヤニヤしながら呼んでくるんですよ…。完全に嫌がらせだと思うんですけど」

丸井さんと帰りながらお喋りしていると仁王さんの話題になった。名前呼びの話をしたら、丸井さんも「名無しちゃん」とニヤニヤしながら呼んできたので、グーで二の腕を殴っておいた。

「仁王が女子と仲良くするなんて珍しいんだよなー」
「え、意外。彼女とか多そうなのに」
「彼女はすぐ出来るんだけど、女友達がなあ…あいつモテるから、仁王が友達のつもりでも向こうは違う、ってパターンがほとんどでさ」
「あー……なるほど…」
「だから女子のこと信用してないっつーか………疑い深くてあんま仲良くなることなかったんだよ」
「へぇー」

イケメンも大変だなあ。モテるのも考えものなのかも知れない。イケメンはイケメンなりに色々苦労があるんだな。と思っていると、丸井さんが何かを思い出したよに「あ」と声を上げた。

「?」
「名無しの!俺にも弁当作ってくれよ、仁王だけずりぃ!」
「え」

え、お弁当?なんで急にお弁当?話が飛びすぎてついていけない。
よくよく話を聞くと、仁王さんに弁当が美味いと自慢されたらしく食べてみたくなったらしい。……美味しいと言ってもらえるのは嬉しいが、くれくれと言われるのは微妙だな。私はお弁当係じゃない。それに仁王さんの為に作ったわけじゃないし。成り行きで物々交換しただけだ。

「嫌です。面倒なんで」
「え」
「そもそも仁王さんの為に作ったんじゃなくて、仁王さんのお昼と私のお昼を交換しただけです」
「えー……………」

不満そうな丸井さん。何が不満なんだ。物々交換なら良いですよ、と言っても不満そうだった。
自分のお弁当と人のお弁当二つも独り占めしたいのか。私より丸井さんの方が食い意地はってると思う。

ぶーぶー言う丸井さんをスルーし続けていると家が見えてきた。ぶーぶー言い続けてくる(「なー、弁当」「…」「なー」)丸井さんにだんだんイライラしてきたので仁王さんに聞いた『丸井さんを傷付ける呪文』を別れ際に言うことにした。

「なーってば」
「………そんなに食い意地はってたらそろそろ太りますよ『デブンちゃん』」
「おま、デブンちゃんって言うなし!バーカ!もう帰る!」

と、叫んで丸井さんは帰っていった。『デブンちゃん』はかなりの禁句ワードらしい。

家に入って、ちょっとひどかったかな、でもしつこい丸井さんも良くないよね。と思っていると『仁王が俺のガム隠してた!』と怒りマークのデコメがたくさんついたメールが丸井さんから届いた。デブンちゃんの件は気にしてないようだ。良かった。
少しホッとしながら『ドンマイ』と返信してケータイを閉じた。

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