春うらら

□第二十話
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バレンタインデー前日。恋する乙女たちは今ごろ本命チョコを作ったり、可愛くラッピングしたりで大忙しだろう。
私も友チョコぐらい作ろうかと思い近くのスーパーに材料を買いに来たのだが、バレンタインコーナーに群がる女の子たちが怖かったので、何も買わずに引き返した。あんな必死な女の子たちの中に割って入る気力、私にはない。どうしても作りたいわけじゃないし今回はやめておこう。また来年作れば良いよね。

スーパーを出て家に向かって歩いていると携帯が鳴った。
仁王さんから電話だ。いつもメールなのに珍しい。何かあったのかな。と思いつつ電話にでる。

「はい、もしもーし」
「あ、仁王じゃけど」
「うん。どうしたの?」
「名無しちゃん今スーパーの近くにおる?」
「え、なんでわかるの?」
「エスパーやきなんでもわかるんじゃ」
「…へー」
「リアクション薄いのぅ」

エスパーとかすぐわかる嘘つくからだよ。と言いつつ辺りを見渡す。携帯ではなく、近くから仁王さんの声が聞こえた気がしたのだ。

「あ」
「あーあ。見つかったナリ」
「近くに居たんなら声かけてよ」
「プリ、」

キョロキョロ見渡していると、数メートル後ろに仁王さんがいた。部活帰りのようでテニスバックを提げている。
丸井さんもそうだけど、見た目は不良っぽいのに部活は真面目にやってるんだな。というか、真田くんと柳生くんは、風紀委員なら彼らの頭の色についてどうにかするべきだと思う。と考えていると仁王さんが近付いて来た。

「今帰り?」
「うん。名無しちゃんは?」
「スーパーに用事があったんだー」
「ほーん。……………あ!明日の為にチョコレート買うたんじゃろ?」
「え」
「俺もチョコ欲しいナリ」
「買ってないし、あげないよ」

ゆっくり歩きながらお喋り。
スーパーに来たって言っただけでチョコレート買いに来たと言い当てられてしまった(実際は買ってはないけど)。なかなか鋭いな仁王さん。
そしてチョコレートをあげないと言った瞬間、詰め寄ってきた。

「なんで作ってくれんの?」
「なんでって………」
「名無しちゃんから貰えると思って楽しみにしてたのに…」
「………」

えええええ。なぜ貰えると思った。どこからそんな自信が湧いてくるんだ。いや、まぁ、仮に友チョコを作ってれば、あげたかもしれないけど。

「あー…。ごめんね?」
「……なんで疑問系なん?」
「いや、悪いとは思ってないから」
「うう。名無しちゃん冷たい」

とりあえず程度に謝ったら仁王さんがうそ泣きを始めた。うーん。そんなにチョコレートが欲しかったのか。

「仁王さんって甘党だったっけ?」
「甘いもんはあんまり好かん」
「えー……じゃ、なんでチョコ欲しがるの」
「だって名無しちゃんお弁当作るの上手じゃから、お菓子も食べてみたかったんじゃもん」
「………来年作るからそれまで待ってて」
「えー!」

ブーイング全開の仁王さん。そんなに楽しみしてくれていたのは嬉しいけど、材料がないんだから無理なものは無理だ。諦めてくれ。と言うと、とてつもなく面倒くさいことを言い出した。
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