春うらら

□第二十話
2ページ/2ページ

「んじゃ、明日お弁当作って」
「は?」
「物々交換じゃなくて俺のお弁当作って」
「………」

うわー…、面倒くさい。とてつもなく面倒くさい。なぜお弁当を作らねばならないのか。一人分なら前日の晩御飯の残り物をつめるだけで済むけど、二人分になるとそれなりに準備しないといけないじゃないか。それにお弁当箱二つも無いし。いや、あることはあるけど、保温性抜群のやつは一つしかない。二つもお弁当を学校に持っていくとか重いし。と、思っていると仁王さんに「面倒くさいって顔に書いてあるナリ」と言われてしまった。

「いや、だって………ね?」
「お願い名無しちゃん」
「えー……。面倒くさいよー」
「作ってくれたらホワイトデーのお返し、前に名無しちゃんが食べたがってたイチゴ大福にするナリ」
「え」
「富士乃屋のイチゴ大福じゃろ?」
「うん!え、マジで?」
「うん」
「あそこのイチゴ大福数量限定で買うの大変なんだよ?」
「大丈夫じゃ。任しんしゃい」
「……………マジか」

ヤバイ。どうしよう。素晴らしい提案をされてしまった。さっきまで断る気マンマンだったが、今は非常に心が揺れている。ぐらっぐらだ。どうしよう。
イチゴ大福のために何度かお店に並んだことがあるのだが一度も買えたことがない。いつもすごい行列で順番が回ってくる前に売り切れてしまうのだ。仁王さんは任せろとか言ったけど本当に手に入るのだろうか。行列に並ぶより、お弁当を作った方がまだ楽だよね。と悩みつつ、ちらっと仁王さんの顔を見ると、ニヤリと笑われた。くそぅ、なんか悔しい。なぜ笑うんだ。

「作ってくれる気になったかのぅ」
「…………………………良いよ」

なんだかすっごく悔しかったけど返事をする。すると、やったやったと喜んでいた(「嬉しいナリ。明日のお弁当のために今日の晩御飯食わんとく」「は!?何言ってんの?」「お腹空いとる方がより一層美味く感じるじゃろ?」「いやいやいや。きちんとご飯は食べなさい」「ピヨ」)。

グダグタと話ながら歩いていると、いつの間にか家の前に着いていた。仁王さんに「私の家ここ」と声をかける。

「学校から近いんじゃな」
「うん。五分で着くよ」
「羨ましいナリ」
「あはは。でしょ?……んじゃ、また明日ね」
「うん。お弁当楽しみにしてるぜよ」

バイバイと手を振って来た道を戻っていく仁王さん。……ん?なんで戻るんだろう。と後ろ姿を見送りながら、ぼんやり考える。
あ、そうか。わざわざ送ってくれたのか。何も言わずに。私が気を使うと思って言わなかったのかな。……優しいなあ。意外にジェントルマンなんだな。さすが柳生くんのパートナー。
なんて思っていると曲がり角を曲がる仁王さんがこっちを見た。ヒラヒラと手を振ってみる。すると、嬉しそうに笑って手を振り返していた。…うーん。なんで嬉しそうんだろう。仁王さんの喜ぶポイントが良くわからない。……まあ、いいか。


仁王さんの姿が見えなくなったので、家に入る。さて、明日のお弁当の下ごしらえでもしようかな。と気合いを入れつつ台所に向かった。
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ