春うらら

□第二十一話
1ページ/1ページ

なんだかんだあって仁王さんにお弁当を作ることになった。
最初は面倒くさいと思っていたのだが、下ごしらえをしている内にだんだんテンションが上がってきて、あれやこれやと作りすぎてしまった。結構量あるなあ。食べきれるかな…。と若干の不安を抱きつつお弁当を二つ手提げ袋に入れて家をでた。


「おはよー」
「おはよー。はい、名無しちゃん。これあげる」
「わあ!ありがとー!」

教室に入って席についてすぐ、ハナちゃんがチョコをくれた(生チョコとチョコチップのマフィン)。美味しそう。今すぐ食べちゃおうかな。と、ニヤニヤしていると、廊下から女の子たちの声が聞こえてきた。みんなキャーキャー騒いでいる。

「幸村くんいた?!」
「いなーい!朝練も出てないみたいだったよ!」
「うそー!?チョコ渡したいのにー」

………幸村くんってあの人だよね…テニス部部長のイケメン王子。さすが王子様だなあ。彼は今日どれくらいチョコ貰うんだろうか。というか、あんな風に追われるとか、もはやアイドルだよね。と思っていると携帯が鳴った。仁王さんからメールが届いている。

『弁当は?(´∀`)』

メールが来た時点でお弁当のこと聞かれるとは思ってたけどさ。……催促するにしても他に言い方ないのか。
ため息をつきながら返信する。

『持ってきたよ。いつ渡せば良い?』
『わーい。昼休みに取りに行くナリ。将棋部まで』
『え、なんで将棋部?』
『バレンタインで女子がうっとうしいから教室の方に近寄りたくないんじゃ』

へー。モテる男は大変だな。別にチョコぐらい受け取ってあげれば良いと思うけど、一々対応するのが面倒くさいんだろうか。それとも仁王さんもアイドルばりに追いかけられたりするのか?…………まぁ、いいや。お弁当持ってくついでに部室で電気ストーブつけてお弁当食べよう。ぬくぬくランチタイムだ。
仁王さんに『わかった。部室まで持ってく』と返信して携帯をポケットにしまった。


昼休み。ハナちゃんには部室に用事があるからと言って教室から出た。手提げ袋を持ち、ダラダラと歩きながら部室に向かうと、ドアの前でしゃがみこんで携帯をいじっている仁王さんがいた。

「おまたせー」
「名無しちゃん遅いナリ」
「アハハ、ゆっくり歩いてきたからね」
「寒さで手がかじかんだぜよ、ほら」
「うっわ!冷たっ!」

仁王さんの手がびっくりするほど冷たかった。氷みたい。冷え性なんだろうか。とりあえず私の手まで冷えてしまうので振り払っておく(「…ひどいナリ」「冷たくなったらどうしてくれる」「プリ…」)。
仕方ないな、と思いながらポケットからカイロを取り出して仁王さんに渡す。手を暖めるならコレを使いなさい。

「あげる」
「え、良いん?」
「うん。冷え性の仁王さんに譲ってあげるよ」
「俺、冷え性なんか…」
「それだけ手が冷たかったら冷え性でしょ、たぶん」
「冷え性って女子がなるもんじゃろ?」
「いや、男の子もなるんじゃないかなー」

なんて話しながら仁王さんにお弁当を差し出す。保温性抜群のお弁当箱だから中身はまだホカホカのはずだ。これでも食べて体の中からも暖まってくれ。
お弁当を嬉しそうに持つ仁王さんに「いちご大福忘れないでね」と念を押すと「期待しときんしゃい」と頼もしい返事が返ってきた。
よしよし。これで念願のいちご大福が食べられるぞ。

そのあと成り行きでお弁当を一緒に食べることになった(「お弁当一緒に食べたいナリ」「……嘘だ。電気ストーブにあたりたいだけでしょ」「プリ、」)。

ガチャガチャと鍵を開けながら、将棋部前に集合した理由って女の子を避けるためじゃなくて実はこれを狙ってたんじゃなかろうか。と思いつつ、部屋に入った。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ