春うらら

□第二十二話
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部屋に入ってキョロキョロと中を見渡す。柳さん以外の役員はいないようだ。
無人の部屋にノックしてたのか…恥ずかしい。ていうか鍵もかけず無人にするとか不用心だな。と思いながらドアから一番近いソファに座る。
どれぐらい時間かるんだろうか。何か手伝った方が良いかな?…いや、下手に手伝って邪魔するのもな…。
5分ほどそんなことをぐるぐると考えていると、柳さんが「待たせたな」と言いながら書類を持ってきた。

「……早いですね」
「そうか?」
「はい」

もっと時間がかかると思っていたので拍子抜けだ。ソファから立ち上がり書類を受け取ろうとすると、柳さんに「まだ座っていてくれ」と言われた。
他になにかあるのか?と思いつつ座り直すと、向かいに柳さんも座った。書類を脇に置いてペンを持ちパラパラとノートを開いている。
え、なんなの?事情聴取でもされるのか。ドキドキして身構えていると柳さんが口を開いた。

「…最近、仁王と仲が良いそうだな」
「…………は?」

………え?何?なんで急に仁王さんの話?わけがわからない。思わず「は?」とか言ってしまった。混乱しつつ質問に答える。

「………仲良くさせて頂いてますが……何か?」
「あいつの食生活をどう思う?」

………仁王さん食生活なんて知らないんですけど。ていうかなんで柳さんはそんなこと気にするの?もしや他人の食生活まで調べてるの?……怖い。

「えっと、どう思うと言われても…」
「…そうだな。質問の仕方が悪かった。すまない」

いや、質問の仕方じゃなくて質問自体がすでに意味不明なんですけど。意図がわからないんですけど。と思いつつ、柳さんに反抗できるはずもないのでおとなしく質問を待つ。

「名無しのは仁王と食事をしたことはあるか?」
「…はぁ。数回程度ですけど」
「そうか。その時あいつの偏食具合に驚いたんじゃないか?」
「いえ、全然。…多少好き嫌いの文句は言ってたかもしれませんけど特に驚くことはなかったですね。文句言いつつも食べてましたし」

と答えた瞬間、柳さんの目がカッと開いた。
ええええええええ…!なに?なんで?なんで急に目開いたの?怖いんですけど…!
突然の開眼にビクビクしていると、柳さんが目を開いたまま質問してきた。

「文句を言いつつ食べていた、だと?」
「は、はい」
「野菜もか」
「はい…」
「名無しのとの食事中、仁王が何かを食べ残したことは?」
「い、今のところないです…」
「そうか………」
「…………」
「………どんなものを食べたか覚えているか?」
「ええええっと、……」

一緒に食べたお弁当のおかずを思い出し、言っていく。
切り干し大根にアスパラベーコン巻き、肉団子にカボチャの煮物、ロールキャベツにささみのシソ巻き…etc。
柳さんはそれをすごいスピードでノートにメモしていった。


パタンとノートを閉じて、何かに憑りつかれたようにメモをとっていた柳さんが口を開く。

「なかなか面白いデータがとれた。ありがとう」
「あ……いえ。お役に立てたようで………」

…………怖かった。柳さんが怖かった。いつもは閉じてる目が開いてたし(今は閉じてるけど)、一心不乱にノートとるし、そのノートに個人情報が書いてあるのかと思うと余計怖くなって最後の方は半泣きだったかもしれない。それにデータってなんだ。食べた物を言っただけで何がわかるって言うんだ。ほんと………怖かった。さっさと書類を受けとって部室に戻ろう。

「もう部室に戻って良いですか…?」
「あぁ、大丈夫だ。引き留めてすまなかった」
「いえ。では、失礼します」

書類を受け取り、頭をさげ、早足で生徒会室をでる。
さっきの事で、より柳さんが苦手になったかもしれない…。何考えてるのか全く読めないし、じっと見られると観察されてる気分になるから嫌なんだよ…。さっきの仁王さんの話をしてる時も、なんか観察されてる気がして冷や汗タラタラだった。

仁王さん、ごめん。怖さのあまり色々ペラペラ喋ってしまった。まぁ、でも食べ物のことしか言ってないから大丈夫だよね。と心の中で謝りつつ部室へ戻った。
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