春うらら

□第二十三話
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柳さんから預かった書類を部長に届けて「今日はもう帰ります」と部員達に挨拶をして、部室を出る。
あー…書類持っていくだけだったのに妙に疲れた…。柳さんの開眼の怖さ半端ない……。と思いながら廊下の窓から外を見ると、丸井さんが一人で練習しているのが見えた。
へー…意外だなあ。一人で練習したりするんだ。面倒くさがってしないタイプかと思ってた。
感心しながら眺めていると、ふいに丸井さんが上を向いた。三階にいる私に気が付いたようで手を振っている。窓を開けて声をかける。

「練習お疲れー!」
「おー!」
「んじゃ、私帰るから頑張ってねー」
「なんだよ、一緒に帰ろうぜ!」
「えー」
「ジャッカルに美味いたい焼き屋教えてもらったんだけどなー」
「わあ!丸井さん早く帰ろう!」
「………調子いいやつ」
「えー?聞こえなーい」
「なんでもねーよ!下駄箱集合な!」

はーい、と返事をして窓を閉める。
たい焼き楽しみだなあ。やっぱり疲れた時には甘いものだよね。と足早に下駄箱に向かった。



ジャッカルさんお勧めのたい焼き屋さんで結構な量のたい焼きを買ったら(丸井さん9つ、私6つ)お店のおばちゃんがお茶をおまけにくれたので、近くの公園で食べることに。
ベンチに座って、早速袋から1つ取り出してかぶりつく。
んー…!美味しい…!カスタードの甘さもちょうど良いし何より皮?の厚みが私好みにモチモチしてる。良いお店教えてもらったな。

「名無しの…お前…美味いのはわかるけどニヤニヤすんな。こえーよ」
「いや、丸井さんこれはニヤニヤしても仕方ない美味しさだよ。カスタード食べた?」
「カスタードはまだ。あんこも美味いぞ。こしあんだった」

丸井さんとたい焼き食べながら、のんびりお喋り。
たい焼きの感想を述べ合ったり、テストの話をしたりしていると会話の流れで今日の柳さんの話になった。

「あー、そういえば今日生徒会室に用事があって行ったら柳さんがいて………………怖かったんだよね」
「?…なんかあったのか?」
「いや、なんかあったっていうか………仁王さんについて質問されただけなんだけどさ」
「へぇー。なんて?」
「仁王さんの食生活についてどう思うって。…なんでそんなこと急に聞いてきたのか全然わかんなくて、とりあえず怖かったから質問には全部答えたんだけど」
「あー…………」
「え、なにその遠い目」

突然遠い目をする丸井さん。何かあるのかと思いつつ丸井さんの言葉を待つ。

「名無しのは知らないかもしんねーんだけど………仁王さ、偏食がひどいんだよ」
「あー、なんかそんな雰囲気のこと柳さんも言ってた」
「あ、マジで?」
「うん。詳しく聞いてないけど」

と私が言うと丸井さんが仁王さんの偏食の酷さについて話し始めた。
自分が気に入ったものしか食べない。基本的に野菜は残す。気に入らないものを食べるぐらいなら平気でご飯を抜く。丸一日食べないとかざらにある。一度ご飯の抜きすぎて倒れたことがある。それ以来柳さんは仁王さんの食生活を気にかけている。などなど。

「へー……そこまで偏食なんだ……」
「ヤバイだろぃ?」
「うん。私とご飯食べてる時は普通だったから全然気付かなかった…」
「まぁ、あんなに偏食するやつがお前の弁当残さず食べてんだから柳も気になったんじゃね?」
「ふーん………柳さんも大変だねー」
「あいつの場合、調べるのが趣味みたいなもんだろ」
「ていうか、仁王さんが私のお弁当残さず食べてるって、柳さんよく知ってたよね」
「あ、あー………うん。だな」
「え、何その微妙な返事。…………………………え、まさか」
「あははは」

どうやら仁王さんがお弁当を残さず食べていたのを見てビックリした丸井さんはついポロッと柳さんに話してしまったらしい。
余計なことを喋りやがって……おかげで私が今日どれだけ怖かったか…柳さんの開眼の怖さ半端じゃなかったんだけど…!と怒りながら詰め寄ると「わりぃわりぃ」と悪びれもせず謝ってきたので、丸井さんのたい焼きを1つ奪ってやった(「てめ!なにすんだよ!」「丸井さんが余計なこと言うから悪いんだ!」)。

その後お互いのたい焼きの奪い合いになり、攻防を繰り広げながら完食。
急いで食べたせいであんまり味わえなかった。また今度買いに来よう。今度は丸井さん抜きで。と思いつつ、お茶を飲み干した。

夕暮れになってきた辺りでお喋りをやめて、帰ることになった。
公園で丸井さんと別れ、家に帰る。
あー、今日の晩御飯は少な目にしないと太るよね。などと考えながら家に入った。

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