春うらら

□第二十四話
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ん?………あ、あれ………柳生くん……?
私の目の前にいるのも柳生くん(まだガン見してくる)。その柳生くんの後ろから来る人も柳生くん…。え、なんで?なんで同じ人が二人もいるの?普通ありえないよね?あ、まさかドッペルゲンガー?
怖くなってきたの目の前の柳生くんから一歩離れる。

「名無しのさん?どうしました?」
「………や、柳生くん………後ろ…………」

後ろに下がった私を不思議に思った柳生くんが声をかけてきたので、プルプルと震える指先で柳生くんの後ろにいるドッペルゲンガーを指差す。柳生くんが後ろを振り返るのと同時ぐらいにドッペルゲンガーがこちらに気づいた。

「「あ」」

柳生くんとドッペルゲンガーが二人そろって声を出す。
さすがドッペルゲンガー。発する声もそっくりだ。怖いのでさらに二歩後ろに下がると、ドッペルゲンガーがすごい勢いでこっちに近付いてきた。

「ちっ、タイミング悪いのぅ」
「え」

今、目の前の柳生くんから仁王さんの声が聞こえた気がしたんだけど……。と今度は私が目の前の柳生さんをガン見していると、ドッペルゲンガーが近づきながら声をかけてきた。

「仁王くん!私のフリをして名無しのさんをからかうのはやめたまえ!」
「プリ、」
「え」

ええええええ…!仁王さんなの?!と驚いていると、柳生くん(仁王さん?)が自分の髪の毛をぐしゃりと掴み、引っ張った。すると髪の毛が外れ、中から仁王さんのトレードマークの銀色の髪の毛が現れた。そして、驚いて固まっている私を他所に逆光メガネを外し、ニヤリと笑った。

「名無しちゃんがなかなか鋭くて、ちょっと焦ったぜよ」
「………ほ、ほんとに仁王さん……?」
「プリ、」

ほんとに仁王さんだ…。こんな変な言葉を発するの仁王さんぐらいしかいない。でもなんで柳生くんになってたの?それに変装にしては似すぎじゃない?と一人で考えていると、近付いてきた本物の柳生くんが仁王さんに説教をし始めた。

「仁王くん!試合以外で私の姿をして他人を驚かすのは止めてくださいとあれほどお願いしたはずですよ!」
「そうだったかのぅ?」
「そうですよ!都合の悪いことだけ忘れるのはやめたまえ!」
「ピヨ」

説教されてるはずなのに仁王さんは飄々していて全く堪えていないようだ。柳生くんも大変だな、と二人を見ていると説教をやめた(というか諦めた)柳生さんが私の方に向き直り、頭を下げた。

「大変申し訳ございません。仁王くんがご迷惑をおかけしまして……」
「いやいやいやいやいや!全然大丈夫だから頭あげて!」

迷惑なんてかかってない、驚いただけだ。と言うと頭を上げてくれた。ホッとしながら口を開く。

「ほんとビックリしたよ…。そっくりだったから気付かなかった」
「いや、柳生と俺の変装との違いに何か気付いとったじゃろ?」
「え、そうなんですか?」
「いや、気付いてなかったよ。………ちょっといつもと違うなあ、とは思ったけど」

と言うと、どこがおかしかったんじゃ?とか、なぜそう思われたのですか?と二人に質問攻めにされてしまった。
なんとなく思っただけで理由があったわけじゃないから理由とか聞かれても困る。


その後、二人と喋りながらテニスコートに向かった(「なんで仁王さんは柳生くんの変装してたの?」「試合で変装するからのぅ、練習じゃ」「…え?」「ははは、一度試合を見て頂ければわかりますよ」)。


もう部活は終わっていたようで、テニスコートには誰もいない。
仁王さんに「ちょっと待っとって」と言われたのでテニスコートのフェンスにもたれながら待つこと数分。
仁王さんと、なぜか丸井さんが部室から出てきて近付いてきた。なんで丸井さんまで一緒にくるんだろう?

「……………」
「……………」
「え、何で二人してだんまりなの?」
「…………ブンちゃん。ちゃんと言いんしゃい」
「…………わかってるよ!」

目の前にいながら、だんまりの二人に声をかけると、悪いことをしてお母さんと一緒に謝りに来た子供みたいなやりとりをし始めた。変なの。なにかあったのか?………あ。…え……まさか。
嫌な予感が頭をよぎりつつ、丸井さんの言葉を待つ。

「いちご大福、全部食べてしまいました。ごめんなさい」
「…………………………」

深々と頭をさげて謝る丸井さん。あまりのショックに絶句する私。ため息をつく仁王さん。
ありえない。ほんとありえない。なんのために休みの日に学校まで来たのだ。と思いつつ、丸井さんに声をかける。

「………なんで食べちゃったの?」
「仁王が甘いもの食うわけないから良いかなと思って、つい……」
「………………」

部室の冷蔵庫に仁王と書かれたいちご大福の箱を発見して、つい手がのびてしまったらしい。
仁王さんに頭を殴られる丸井さんを見ながら、今日は色々とありえない一日だな。とため息をついた。
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