春うらら

□第二十七話
1ページ/2ページ

仁王さんに「食生活に気を付けなさい」と言ってから1ヶ月経ったのだが、仁王さんが前より乙女チックになった。
前は毎日メールが届く程度だったのに今はそれプラス電話も2日に1度はかかってくるようになったし、お弁当の催促も多くなった。丸井さんとの寄り道についてくるようにもなったし、たまに一緒に帰ったりもしている。
まぁ、電話の内容はたわいもない話を多少する程度なので別に良いし、お弁当も物々交換だからコレも別に良い。丸井さんとの寄り道についてくるのも3人でワーワー騒ぐのが楽しいからこれも良いし、一緒に帰るのも一人で帰るより楽しいから良い。
良いんだけども……………。改めて懐かれるようなことしただろうか?なぜこんなに乙女チックになったんだ?と、仁王さんの変化に中々ついていけず、戸惑う日々を送っている。




「ねぇ名無しのさん」
「?」
「お弁当、俺のと交換しない?」
「…………………は?」

ある日のお昼休み。今日はハナちゃんが部活の集まりで一緒にお昼を食べれないので久しぶりに外で食べようかな。と思いお弁当袋を片手に立ち上がろうとしたら、隣の席の幸村さんに声をかけられた。
………えっと、お弁当を交換しないかって言われたんだよね…。……え、なんで?突然何言い出すんだ。と思いつつ口を開く。

「えっと、なんで?」
「仁王に名無しのさんのお弁当が美味しいって自慢されたから、食べてみたくなったんだよね」
「…………へぇ」

仁王さん…何余計なこと言ってんの…?誉めてくれてるのは嬉しいけどやめてくれ…!
頭の中で仁王さんを責めていると幸村さんが悲しそうな顔をして「駄目かな?」と言ってきた。
………その顔やめてください。罪悪感涌いてくるんですけど…。何もしてないのに良心が痛む…。イケメンってすごいパワー持ってるんだな……。…まぁ、お弁当の交換ぐらい別に良いか。幸村さんのお弁当と交換してくれるらしいし。ご飯が無くなるわけじゃないもんね。
考えた末「どうぞ」と自分のお弁当袋を差し出すと、幸村さんはニッコリ笑って「ありがとう」と言いながらお弁当に手を伸ばしてきた。

「「あ」」

あと少しで幸村さんの手がお弁当に触れるというタイミングで、何者かが私のお弁当を横取りした。
突然お弁当を奪われたことにビックリしつつ、奪った犯人に視線を向けると、お弁当をかかえた仁王さんが立っていた。

「え」
「…………」

………えええええ?!何してるの?なんでここにいるの?いつ教室に入ってきた?なんでお弁当取ったの?
色々驚きすぎて言葉が出ないので黙ったまま仁王さんを見つめる。視線を合わせても、仁王さんは黙ったままで何も言わない。
どうしよう。何をしたいのか全然わからないぞ。と思っていると幸村さんが口を開いた。

「仁王、どうしたんだい?」
「…………………」
「あ」
「あ、え、ちょ、仁王さん?!」

仁王さんはなぜか幸村さんを睨み、私のお弁当を持ったままズンズンと教室から出て行ってしまった。
……え、意味わかんない。お弁当取られたんですけど。私のお昼無いんですけど。え、なんで?なんで取られたの?
軽く混乱していると幸村くんが突然笑い出した。

「ぷっ、………あははははは!」
「………」
「あははは!あー面白い…!見た?今の仁王の顔…!…ぷっ、くくくく」
「………」

突然笑い出した幸村さん。何がそんなに面白いのかわからない。……うーん、幸村さんってかなりすごいんじゃないだろうか。仁王さんに睨まれたのに爆笑してるんだから。普通睨まれたら怯むよね?怯むどころか爆笑って…………。などと考えていたらクラスの子たちが騒いでる声が聞こえてきた(「幸村くんが笑ってるー!」「えー、あんなに笑ってるの初めて見た!」「なんで仁王くんがいたの?」「名無しのさんのお弁当持っていったよね?」)。
うわ、最悪。目立ってたのか…。とりあえず購買にパンでも買いに行こう。そして部室で食べよう。教室にいると面倒くさそうだ。と思い、まだ笑ってる幸村くんを横目に鞄を持って教室を後にした。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ