春うらら

□第二十七話
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「で?」
「………………」
「なんでお弁当取ったりしたの?」
「………………」
「ちょっと目立ってたんだよ?」
「………………」
「私、目立つの嫌いなんですけど」
「………………」
「………何か言ってくれないとわかんないんだけど」
「…………ピヨ」
「…怒るよ?」
「ゴメンナサイ」

床に正座する仁王さん。その前にしゃがんで問い詰める私。私たち以外誰もいない将棋部の部室で説教タイム中である。
購買で適当にパンを買って部室に向かうと、ドアの前でしゃがみこんでる仁王さんがいたので、とりあえず中に入れたら、自主的に正座したのだ。
いつもは飄々としていて、説教されても気にも留めない仁王さんが珍しくションボリしている。一応自分でも「悪いことをした」という気持ちはあるようだ。
ハァ。とため息をつくと仁王さんがビクリと揺れた。

「もういいよ。足痛いでしょ?椅子に座ろう」
「………怒っとる?」
「まぁ、多少」
「…ゴメンナサイ」

またションボリとする仁王さん。
謝るぐらいなら最初からしなければ良いのに。とか言ったら余計へこみそうなので黙っておく。

「良いよ。はい、座って。ご飯食べよう」
「…………」

だんまりの仁王さんの手を引いて椅子まで誘導する。机の上にお弁当を広げてあげてから、自分は向かいの席に腰を下ろした。

「いただきまーす」

購買のパンにかぶりつく。あ、この焼きそばパン美味しい。とか考えてたら仁王さんが声をかけてきた。

「…名無しちゃん、弁当食べんの?」
「仁王さんにあげるよ。………お弁当食べたかったから取ったんでしょ?」
「いや、…………まぁ、うん」

あれ?おかしいな…。お弁当食べたかったのに取られそうになったから奪ったのかと勝手に思ってたんだけど違うの?思っていると、仁王さんがお箸に手をつけたのでホッと息を吐く。
良かった。かなりへこんでたから「食欲無い」とか言われるかと思った。
ゆっくりとだがキチンとお弁当を食べる仁王さんを眺めつつ、パンを食べる。

その後ポツポツとたわいのない話をしながら食べ進め、二人とも完食。よしよし、残さず食べたな。とお弁当を片付けていると仁王さんが話し掛けてきた。

「弁当ありがとう。美味かったナリ」
「どういたしまして」
「………なぁ、名無しちゃん」
「んー?」
「なんで幸村に弁当渡そうとしとったん?」
「え、渡そうとしてないよ」
「え?」

何やらビックリしている仁王さん。何をそんなに驚いているんだ。てか、事の発端は仁王さんが余計なこと言うからだろう。と思いつつ「お弁当渡そうとしてたんじゃなくて、交換して欲しいって言われただけだよ」と言うと、仁王さんが急にヘニャリと机に倒れ込んだ。

「え、どうしたの?」
「騙された……」
「?」

倒れ込んだ仁王さんから「幸村め…」とか「詐欺師なのに…」とかなんとか聞こえてくる。
気になったので詳しい話を聞いてみると、朝練の時に幸村さんに「名無しのさんにお弁当作ってもらったんだ」と自慢されて、本当かどうか確かめる為に教室を覗いたら私がお弁当を差し出す瞬間を目撃して、気が付いたら体が動いていたらしい。
へぇー、幸村さんがあんなに笑ってたのは仁王さんを騙せたからなんだな。意外と策士だなあ。てか、体が勝手に動くほどお弁当渡したくなかったのか仁王さん。などと思いつつ、デザートに買ったプリンを頬張った。
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