春うらら

□第三十話
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放課後。人がパラパラと残る図書室で黙々とペンを動かす。明日の英語の小テストのために勉強しているのだ。
区切りの良いところでペンを止め、図書室の時計をみると、5時を少し回っていた。
結構集中してやってたんだなあ。こんなに頑張ったし、明日の小テストは大丈夫だろう。よし、そろそろ帰ろうかな。と筆箱やらノートやらを鞄に入れていると、あるものが無いことに気がついた。

「……ヤバイ………携帯ない………」

ポケットに入ってないし、机の上にもない。もちろん鞄の中にもない。
ヤバイ…。どこやった?最後に使ったのいつだっけ?と考えながら、念のためもう一度鞄の中を探すが、やはり見つからない。
……とりあえず教室に戻ろう。と鞄を持ってダッシュで教室に向かった。


教室で、自分の机をガサゴソと漁る。
……ない。ここにもない。うわ、どこやったんだろう?と必死になっていると肩をツンツンとにつつかれた。

「?」
「……………」
「……どうしたの、仁王さん」

肩をつついたのは仁王さんで、私が振り返っても何も喋らない。
放課後の教室に来るなんてどうしたんだろう。なんで黙ってるの?と思っていると、

「……コレ中庭で拾った。名無しちゃんのじゃろ?」

と、私の携帯をポケットから取り出した。
あぁ!私の携帯!……そっか、思い出した。今日は天気が良いからってハナちゃんと中庭でお昼食べたんだっけ。たぶんその時に落としたんだな。

「うわぁ、ありがとう!ちょうど今探してたんだよ。ほんとありがとう、仁王さんが拾ってくれて助かったー!」
「………」
「…………えっと」

見つかったことにホッとしつつ仁王さんにお礼を言って携帯を受け取ろうと手を伸ばすが、何故か渡してくれない。
どうしたの?と仁王さんを見ても、だんまりのまま見つめ返してくるだけ。
何かした?携帯届けてもらって、ちゃんとお礼言ったよね?……あ、お礼の言い方まずかった?と戸惑っていると仁王さんが口を開いた。

「………」
「え?なんて?」
「……待ち受け、なんでブンちゃんなん?」
「待ち受け?………あぁ、あれはね、」

仁王さんの様子がおかしかったのは、どうやら私の待ち受けが気になったかららしい。
なんだ、そんなことか。と思いつつ待ち受けの理由を説明する。
実は、1年生の最初の頃、丸井さんとバケツプリンアラモードを食べた時に色々あって、それ以来ツーショットの写メを待ち受けにしてたんだ。特に理由はないよ。ただなんとなく設定し直すのが面倒だったからなんだけ。ていうか、別に待ち受け画面ぐらいでそんなに気にしなくても。と言うと、聞き終わった仁王さんが突然乙女チックを炸裂させた。

「ブンちゃんばっかりずるい」
「え」
「俺もツーショット撮りたい」
「えぇ?」
「で、待ち受けにする」
「えー…」
「名無しちゃん写メ一緒に撮って」
「えー…」
「プリクラでも良いぜよ」
「えー…」
「あとブンちゃんの待ち受けやめてくんしゃい」
「えぇ……別のやつに設定するの面倒くs「俺がやっちゃるから」
「………じゃぁ、はい。お願いします…」

な、なんだ………?なんでこんなに乙女チックが炸裂してるんだ?と焦りつつ携帯を仁王さんに渡す。
カチカチと素早く操作して待ち受け画面を変更する仁王さんをぼんやり眺めていると「待ち受け何が良い?」と聞かれたので「何でも良いよ」と答える。
待ち受けなんて特にこだわりはない。丸井さんとのツーショットの待ち受けだって、丸井さんが勝手に設定したのをそのまま放置してただけだし。それにしても、今日の仁王さんの乙女チックっぷりはヒドイな。丸井さんに妙な対抗意識持ちすぎだろう。などと考えていると「はい」と仁王さんに携帯を渡されたので受けとる。

「待ち受け、初期画面にしたナリ」
「…………………うん」

いや、まぁ、別に良いけどさ。でもなんかちょっと………ね?とか思ってたら仁王さんがニヤリと笑った。

「初期画面が嫌じゃったら俺とのツーショット待ち受けにしても良いぜよ」
「それは遠慮します」
「プリ、」

また「ブンちゃんばっかりずるい」とか言い出すかと思ったが特に何も言われなかったので一安心。
まぁ、その代わり「明日プリクラ撮りに行こう」と約束させられたけど。

「部活終わったから一緒に帰ろ」と言われたので「良いよ」と返事を返す。
二人で歩きながらお喋りしていたら(「いやぁ、仁王さんが中庭に行ってくれて良かったよ」「ランニングサボって中庭で寝てたら携帯見つけたんじゃ」「え、ダメじゃん」「プリ、」)、いつの間にか家に着いていた。
改めて仁王さんにお礼を言って、手を振り別れる。
よし、晩御飯食べて寝る前に英単語の復習でもしようかな。と思いながら家に入った。

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