春うらら

□第三十二話
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放課後。幸村さんに「蓮二が来るからここで待ってて。俺は用事あるからお先に」と言い逃げされたので、私以外誰もいない教室で大人しく柳さんを待つ。
本音を言えば逃げてしまいたいところだが、わざわざ来てくれる柳さんに失礼すぎるのでそれは我慢。いくら幸村さんが頼んだからとはいえ、顔見知り程度の私の勉強を見てくれるんだから失礼がないようにしなければ。
なんて考えていたら教室のドアが開いたので、視線を向ける。

「…………」
「アレ?」

ドアを開けたのはテニス部のモジャモジャくん。
なぜ彼がここに……。と思っていると声をかけられた。

「あの、スンマセン」
「はい」
「ここ2-Fッスよね?」
「そうですよ」
「………えっと、柳先輩にここに来るように言われたんスけど……」
「あ……柳さんならもうすぐ来ると思いますので、どうぞお入り下さい」
「じゃぁ、失r「なんだ赤也。もう来てたのか」

モジャモジャくんが教室に入ろうとしたところに、柳さんが来てくれた。

「柳先輩!」
「早く入れ。………名無しの、待たせてすまない」
「いえ、全然待ってないです。今日はわざわざすみません」

柳さんに軽く頭を下げる。
それにしても、なぜモジャモジャくんが一緒にいるんだろう……もしかして彼も一緒に教えてもらう約束してたんだろうか…。
教室に入ってくる二人を見ながらそんなことを考えていたら、私の隣に座ったモジャモジャくんが口を開いた。

「柳先輩、それで用事ってなんスか?」
「お前、この前の英語の小テスト3点だったそうだな」
「げっ!なんでそれを……」
「小テストだったから良かったものの、期末テストがそんな点数だったらまた弦一郎に殴られるぞ」
「…………………だって英語全然わかんねーんッスもん…」
「俺が教えてやるから、教科書とノート開け」
「……はい………」
「名無しのは数学だったな。今回のテスト範囲の簡単な問題を作ってきたから、まずはこれを解いてくれ」
「あ、はい」

柳さんからプリントを受けとって、テストの点が悪かったら殴られるなんてテニスって大変だな。と思いながら問題を解いていく。所々つまずく問題もあったが、なんとか全問解くことが出来たので、モジャモジャくんに単語を覚えさせようとしている柳さんに「出来ました」と声をかける。

「あぁ、わかった。………赤也、ここからここまでの単語の意味を調べてノートに書いておけ」
「え、こんなに?!」
「そんなに多くないだろう」
「めちゃくちゃ多いッスよ……」
「…(モジャモジャくん頑張れ)…」
「名無しのはどれぐらい出来た?」
「あ、えっと、全部解きました。…一応」
「そうか。…とりあえず採点するから待っていてくれ」
「はい」

柳さん大変そうだなあ。モジャモジャくんの英語を見て、私の数学も見ないといけないなんて申し訳ないことしたかも。私が数学を教えて欲しいと言わなければ(厳密には幸村さんが言ったのだが)ゆっくりモジャモジャくんの勉強見てあげられたのに…。
採点してくれている柳さんを見ながらそんなことを考えていると突然、ガラッ!と教室のドアが開いた。

「柳!俺にも数学教えてくれ!」
「ブン太!待ってって!」
「名無しちゃん、俺が教えてやるぜよ」
「丸井先輩にジャッカル先輩!仁王先輩まで!」
「「…………」」

仁王さんと丸井さん、ジャッカルさんの三人が教室に入ってきた。
え、何?何事?と軽く混乱していると三人が口を開いた。

「参謀が名無しちゃんの勉強見とるって聞いたんで、助っ人に来たナリ」
「仁王に柳が勉強教えてくれるって聞いたから付いてきた!」
「……ブン太に付き合わされて……」

最後のジャッカルさんの台詞が、すごく疲れた声だった。思わず心の中で「お疲れ様です!」と労っていると、いつの間にか私の目の前に座った仁王さんに「参謀に頼まんでも数学ぐらい俺が教えちゃるのに」と言われたので「あはは…」と苦笑いで返す。隣ではモジャモジャくんと丸井さんが何やら騒ぎ始めた(「うわ何んだよ、この単語の数!」「柳先輩にやれって言われたんスよ!」)ので、柳さんが小さくため息をついた。

「丸井、騒ぐな。教えてやらないぞ」
「わりぃわりぃ」
「ジャッカル、すまないが赤也の英語を見てやってくれないか?」
「あ、あぁ、わかった」
「ジャッカル先輩、よろしくお願いしまーす!」
「丸井は俺が教えるから、仁王は名無しののこと見てやってくれ」
「任しんしゃい」

柳さんの采配で上手く別れることが出来たので、各々勉強を開始。
仁王さんに教えてもらいながら問題集を解いていくのだが、意外にも仁王さんの教え方が上手くてビックリした。わからないところを噛み砕いて丁寧に教えてくれるのだ(「ここにさっきの公式の解を入れるんじゃ」「あー、なるほど!」)。
勉強会がお開きになるころには、ほとんどの問題をスラスラと解けるようになっていた。

「仁王さんありがとう!すっごいわかりやすかったよ」
「これで数学のテストはバッチリじゃな」
「うん、また教えてね」
「おう、いつでも良いぜよ」

なんてお喋りしながら、ノートやら問題集やらを鞄にしまう。
最初から仁王さんに教えてもらえば良かったかな。と思いながらみんなと一緒に教室を出た。
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