春うらら

□第三十三話
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期末テストが終わって数学のテストが返却されたのだが、衝撃をうける結果だった。この平均点女王の私が94点という高得点を叩き出したのだ。
先生からテスト用紙を受け取った瞬間、頭の中は「ビバ仁王さん!ありがとう仁王さん!」という台詞がグルグル回りっぱなしだった。
今までとったことのないよ、こんな点数。すんごく嬉しい。と嬉しさを堪えきれずニヤニヤしていると、いつの間にか近くにいたハナちゃんに「名無しちゃん、顔ヤバイよ」と言われてしまった。

「あ、ごめん」
「いや、良いけどね。私は」

うん………それどういう意味?そんなにヤバイ顔だった?と不安に思いつつ「ハナちゃんテストどうだった?」と声をかける。

「数学はいつも通りだったんだけど、問題は古典だね」
「あー、ハナちゃん古典苦手だもんね」
「………フッ」
「えっ。何その笑い」
「実は柳生くんに教えてもらっているから赤点の心配はないのだよ!」
「おぉ!」

実はハナちゃんと佐竹くんは去年から赤点対策として柳生くんに勉強をみてもらっているらしい。2年になってクラスが別れてからも教えてくれるなんて柳生くんって面倒見良いんだなあ。

「まぁ、終わったテストのことより早く調理室行こ」
「あー、そっか。今日の家庭科、調理実習するんだったっけ」
「うん。エプロン持ってきた?」
「バッチリ。黒のエプロン持ってきた」
「名無しちゃん…、女の子なんだからもうちょっと可愛いげのあるエプロンにすれば良いのに…」
「シンプルイズベストだよ。私のセンスで選んだらとんでもないことになる」

などと、ハナちゃんとお喋りしつつ、エプロンや三角巾を持って調理室へ向かった。



調理室の黒板に班分けが書いてあったので、自分の班のところに移動する(ちなみにハナちゃんとは離れてしまった)。エプロンを付けたりしているとチャイムが鳴り、授業が始まった。
今日の調理実習はクッキーとマフィンを作るらしい。スイーツ系はあまり作ったことがないので自信がないが同じ班の子たちと相談しながら作ればなんとかなるだろう。
班の子たちとあれこれ喋りながら(「あれ?バター何グラムだっけ?」「卵って全卵?黄身だけ?」「あ、これ強力粉じゃん!」)着々と作業を進めていく。
クッキーの生地をコネていると同じ班の小城さんがマフィンをオーブンに入れながら「これ丸井くんにあげようかなあ」と言い出した。

「クッキーかマフィンどっちかあげようと思うんだけどー」
「良いじゃん!丸井くん甘党だから喜ぶよー」
「私もあげようかなあ…」
「えー、誰に誰に?」
「柳生くんにー」
「じゃぁ私柳くんにあげようかなあ」

きゃっきゃっとはしゃぐ声を聞きながら、さすがテニス部。大人気だ。調理実習がある度にこんな風に色んな子たちから貰ったりするんだろうな。もうアイドルだね。彼らは。なんて考えていたら、小城さんに「名無しちゃんは誰かにあげないの?」と言われた。
うーん……。誰かにあげる、かあ…。考えてもみなかったな。クッキーもマフィンも自分で食べる気満々だったし。でも、意外に量がありそうだから一人でコレ食べて、さらにお弁当なんて食べたら午後の体育で辛い思いしそうかも…。
ぐだぐだと悩みつつ、返事をする。

「んー、まだ考え中」
「そっかー。あ、私ラッピングセット持ってきたから、使って良いよ」
「あ、ありがとう」

ら、ラッピングセット…。そんなものまで準備しているとはプレゼントする気満々だな。そりゃ、可愛い袋で渡したいもんね。さすが女の子。と感心していると他の子たちも「私もラッピングセット持ってきたんだー、みてみて」「あ、このリボン可愛い!」と再びはしゃぎ始めた。はしゃく声を聞き流しながら、考える。
勉強みてくれたお礼も兼ねて仁王さんにクッキーあげようかなあ。あ、仁王さんにあげるなら柳さんにもあげた方が良い?いや、そもそもクッキーとかあげて喜ぶものなのだろうか……なんか押し付けてる感じがしなくもない。ただ感謝の気持ちを伝えたいだけなんだけど……うーん、どうしよう。……………とりあえず、作って小分けにしておこうかな。それで、機会があれば渡そう。うん、そうしよう。
考えがまとまったのと同時に生地も良い感じになってきたので、みんなに「生地できたよー」と声をかける。
自宅からハート型や星型の可愛い形の型抜きを持ってきた子がいたのでそれを借りたりして、みんなできゃっきゃっと騒ぎながら残りの作業を進めていった。
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