春うらら

□第三十三話
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小城さんたちと、出来上がったクッキーとマフィンをワーキャー騒ぎながら試食したところ、なかなかの美味しさだった。
普通に美味しい。上出来だね。全部自分で食べてしまいたい。という気持ちを堪えつつ、ラッピングセットを少し貰って小分けにして見栄え良くラッピングしていく。

さて、このクッキーたちどうしようかな…。とりあえず、仁王さんにお礼の粗品として受け取ってもらえるか聞いてみよう。と調理室から教室に戻る途中、歩きながら携帯をポチポチ打っていると、ドンッと肩が誰かにぶつかってしまった。

「っ、すみません………あ、」
「すまない、余所見を……名無しのか、大丈夫か?」
「はい、大丈夫です。……真田くんでも余所見したりするんですね」
「む、いや、これは、その、」
「?」

いつもはハキハキしている真田くんが焦ってる…?珍しい。それに咄嗟に何かを後ろに隠したような…。
好奇心が沸いたのでヒョイと真田くんの後ろを覗くと、可愛らしくラッピングされたマフィンを持っていた。
誰かから貰ったのだろうか。真田くんはこういうの受け取らないタイプかと思ってた。意外だな。と思いつつ口を開く。

「マフィン貰ったんですか?良かったですね」
「…貰ったというか突然押し付けられたというか…」
「?」
「受け取ってくれと言って手に押し付けて、こちらの返事も聞かず走り去ってしまってな」
「あー……」
「捨てるわけにもいかず、悩んでいたところに名無しのにぶつかってしまったのだ。……すまん」
「いやいやいやいやいや、私も余所見をしてたのでお互い様ですよ。私の方こそすみませんでした。…………あの、マフィン食べてあげないんですか?」
「む」

いかつい顔をしながらマフィンを見つめる真田くんに、好奇心から訪ねてみると「甘い物などたるんどる」と意味不明な答えが返ってきた。
何がたるんでるのか全くわからない。甘い物苦手なのだろうか。あげた人がどういう気持ちで渡したのかわからないが、きっと真田くんに食べて欲しいんだろうし、一口ぐらい食べてあげたら良いのに…。んー、でもこんなこと真田くんに言うとお節介になるよね。と考えていたら真田くんは「すまなかった。ではな」と言って立ち去ってしまった。
あ、行っちゃった。……まぁ、真田くんのことだから、結局捨てれなくてしかめっ面しながら食べてあげそうだな。厳しい人だけど人の好意は無下にはしないだろう。
なんて考えていると携帯が鳴った。見てみると仁王さんから電話のようだ。
……お弁当交換してって言われる気がするな。と思いつつ電話にでる。

「はいもしもし」
「あ、名無しちゃん?おれじゃけど」
「うん。どうしたの?」
「弁当交換してくんしゃい」
「アハハ、やっぱり」
「え、なんで笑うん?」
「電話鳴った時点でお弁当の事だと思ってたからさ。予想通りで笑っちゃったよ」

アハハ、と二人で笑い合ったあと「それじゃ将棋部集合ね」と言って電話を切る。
よし、お弁当食べる時にでも仁王さんにクッキーいるかどうか聞こうっと。あー、それにしても今日の仁王さんのご飯は何だろう。いつも何かしら美味しいものを持ってきてくれるから地味に楽しみなんだよね。と思いながら教室へ急いだ。
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