春うらら

□第三十四話
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明日から夏休み。みんな海に行く約束をしたり、お祭りに行く予定をたてたりと非常にウキウキしている。私もみんなと同じように休みの予定をたててウキウキしたいのだが、実は今朝から熱が38度ほどあり体調がすこぶる悪い。学校も休もうかと思ったのだが、まぁ終業式だけだしなんとかなるだろうと高を括って登校した結果、教室に着いた瞬間バタンキューしてしまった。
長期休みに浮き足立つみんなを尻目に、ふらつきながら自分の席に座ってぐったりしていると、幸村さんとハナちゃんが近付いてきて「どうしたの」と心配してくれたので、かくかくしかじかと事情を説明すると「終業式なんて出なくていいのに」とか「とりあえず保健室に行きなさい」とか「熱あるのに学校来るとかバカじゃないの」とか「夏風邪はバカがひくって言うよね」とか散々好き勝手言われた。
二人ともヒドイ。もうちょっと心配してくれても良くないか?いや、まぁ、自分でもバカだとは思うけども。無遅刻無欠席の経歴に傷がつくのが嫌だからって無理して来るんじゃなかった…。大人しく寝てれば良かった…。
二人に好き勝手言われて傷付いた私は「すみません、保健室に行ってきます…」と言って教室を出て(ハナちゃんが付き添おうとしてくれたけど丁重にお断りした。なんだか申し訳なくて)保健室に行くことにした。



ガララッと保健室のドアを開けると、机で何か事務作業をしていたらしい保健医の先生が「どうしたの?」と声をかけてきた。

「どうしたの?もうすぐ終業式始ま……って、顔真っ赤じゃない!大丈夫?」
「すみません…。ちょっと熱があって……」
「でしょうね。えーと、寝転んだ方が楽よね。先客がいるけどそっち側のベッドに寝てて」
「え、あ、はい」

テキパキと先生に指示されベッドに寝転ぶ。カーテンで仕切られた隣のベッドにも誰かが寝ていて、お互い一学期最終日に災難だな、と心のなかで思っていると先生に体温計を手渡された。

「脇にしっかり挟んでね」
「はい」
「熱が高いようならすぐ帰った方が良いんだけど……、お家に誰かいる?」
「いえ、仕事に行ってるのでいません」
「そう…。一人で帰らせるのも心配だし…」

ブツブツ呟く先生の声をぼんやり聞いていると、ピピッと体温計が鳴ったので先生に渡す。やはり熱は38度のままで、先生に「出来れば帰った方が良い」と言われてしまった。
うーん、確かに帰った方が良いんだろうけど今すぐは勘弁してほしい。ベッドに横になったせいか眠気が凄いのだ。今帰ったら道端でダウンする自信があるぐらい眠い。せめて終業式の間だけでも寝かせてくれないかな……少し寝れば気分的にマシになると思うんだ……。あー、駄目だ……。ぐだぐだ考えてたら瞼が上がらなくなってきた……。あー……ヤバイ…。寝……る。
完全に睡眠モードに入った脳の片隅の方で、かすかに先生の困った声が聞こえた気がした。




キーンコーンカーンコーン…

遠くでチャイムの音が聞こえる。
あー、チャイム鳴ったってことはそろそろ授業始まるなあ。起きて準備しなきゃ………でもまだ眠いなあ。もうちょっと寝ようかな……………………ん?チャイム?……あれ?なんでチャイムが聞こえるの?私家で寝てるよね?なのになんでチャイムが?
ハッと急に頭が冴えて目を開ける。目の前にあったのは見覚えのない天井。その天井をぼんやり見つめながら頭をフル回転させる。
なぜだ。なんで家じゃないのに私は布団を被って寝てるんだ。なんでチャイムが聞こえ……あっ。そうだ…。熱が出てて保健室で寝ちゃったんだっけ。うわあ、どれぐらい寝たんだろう……。ていうか、今何時?
寝転んだまま辺りをキョロキョロ見渡したところ、シルバーヘアーの人がベッドに上半身を預けて寝ているのが目に入った。ゆっくり体を起こして寝ている人物を確認する。
うん……。これは仁王さんだね。シルバーヘアーの時点で仁王さんだとは思ったけど。こんなとこで何してるんだろう。もう終業式終わったのかな?と思いながら、仁王さんの肩を揺すって声をかける。

「………仁王さん。仁王さーん」
「…………ん…?」
「仁王さん」
「ん、?……あぁ、名無しちゃん……起きたんか…」
「うん、おはよう」

上半身を起こしてボーッとこっちを見つめてくる仁王さん。寝ぼけているんだろうか…大丈夫かな。と思っていると腕を伸ばしてきた。
なんだ?何か欲しいのか?え、なに?と身構えているとおでこに仁王さんの手のひらが当てられた。

「…(あ、仁王さんの手ひんやりしてて気持いい)…」
「……まだ熱いのぅ。大丈夫?気分は?」
「え、あ、うん。だいぶマシ。えっと、終業式は…?」
「もう終わったぜよ」
「え」

もう…終わった…だと…?え、私そんなに寝てたの?え、じゃぁ終業式の後にあるホームルームは?それも終わったの?え、どんなけ寝てたの?と軽く混乱していると、私のおでこから手を離した仁王さんに体温計を渡された。
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