春うらら

□第三十五話
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「よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」

二人同時にペコリと頭を下げて、対局開始。
指しながら、ちらっとノッポさんの様子を伺うと、さっきのニコニコ顔から一転して真面目な顔になっていた。
笑顔から真面目な顔になっただけでガラッと雰囲気が変わるんだなあ。ていうか、睫毛ながっ。髪の毛はパーマがかかっているのか軽く毛先の方がウェーブしてる。うーん、本当にイケメンだ。最近イケメンを見る機会が増えたので目が肥えてきているのだが………うーん、疑う余地もなくイケメンだな。

「? どげんしたと?」
「あ、え、すみません。ボケッとしてました」
「ハハハ、余裕ったいね」
「いやいやいや、すみません。気合い入れます」

だめだ。ガン見し過ぎた。失礼なことをしてしまったな。と反省しつつ頭を切り替え、勝負に集中する。
様々な策を巡らせながらお互いに指し合っていく。だんだんと周りの声が聞こえなくなるほど集中していき、一手一手につい力が入ってしまう。
対戦が始まってどれくらい時間経ったのかな。と頭の隅で思いながら指しているとノッポさんが急に口を開いた。

「こん勝負あと五手で終わりたい」
「………」

………………え?何?今なんて?
突然意味不明な予言をするノッポさん。しかも不思議なことにキラキラした何かがノッポさんの周りに漂っている。
え、なに…?さっきの発言といい、その周りのキラキラといい、なんなのそれ。そのキラキラどうやって纏ってるの?さっきまでなかったよねそれ。ていうか、そんなキラキラ少女漫画でしか見たことないよ。
急に表れたキラキラに戸惑いながら口を開く。

「あ、あの………」
「ん?」
「その………キラキラしてるやつなんですか…………?」
「? 何かキラキラしとる?」

キラキラについて質問しても「何のことかわかりません」とばかりにキョトン顔を返してくるノッポさん。
………あれ?本人は気が付いていないのか?……もしかして私の目がおかしくなったのか?
不安になったのでゴシゴシと目を擦ってもう一度ノッポさんを見てみる。

「あ、あれ?」
「?」

キ、キラキラが消えてる……。え、うそ………さっきまでノッポさんの周りでキラキラしてたのに……………あぁ、そうか。私疲れてるんだ………。うん。きっとそうだ。キラキラは私の勘違いだ。そうだ。そうに違いない。
なかば無理矢理自分を納得させ、ノッポさんに「すみません。勘違いでした」と謝ってから対局再開。
変な見間違いをしてしまったせいで集中が途切れてしまい、ノッポさんのあの妙な予言の通り五手目を打たれた段階で王手を取られ、残念ながら負けてしまった。

「……負けました」
「……ありがとうございました」
「こちらこそありがとうございました」
「………ふぅー。ギリギリ勝てたばい」
「余裕そうに見えましたけど…」
「そげんこつなかよ。ヒヤヒヤしとったばい。あんた上手かねぇ」
「いやいや、お兄さんのほうが上手いじゃないですか」
「今回はたまたま勝ったようなもんったい」

勝負が終わった瞬間張り詰めていた空気が緩んだようで、ポツポツと会話を交わす。
お互いを誉め合ったり、あの時のあの手はどうだったなど意見交換をしたり。色々話しているうちに話題が将棋から逸れ、お互いの話になった。お兄さんの名前は千歳千里さん。熊本出身だが今は大阪に住んでいるらしい。東京へは部活の試合の為に来たらしい(「え、試合の為に来てるのにここでサボッてて良いんですか?」「大丈夫ばい。俺ん出る幕ないけん」「……」)。

「やっぱり大阪のたこ焼き美味しいですか?」
「うん。美味かよ。金ちゃんなんかしょっちゅう食っとるばい」
「金ちゃん?」
「あー、部活仲間ったい。…名無しちゃんは東京に住んどると?」
「あ、いえ、神奈川に住んでます。今日は祖父のお供で来てて…」
「へぇ。お祖父ちゃん孝行ったいね」
「でしょ?アハハ」

たわいもないお喋りをしていると携帯が鳴った。千歳さんに断りを入れて確認すると祖父からメールが届いていて「入り口付近で待つ」とあった。
もう帰るのかな?仲間との対局は終わったのだろうか。千歳さんとか他の人たちともうちょっと対局してたかったな。と思いつつ千歳さんに声をかける。

「すみません。私そろそろ帰ります」
「もう帰ると?…あと一回ぐらい対局したかったばい」
「すみません…」
「まぁ、しかたな………あ!」
「?」
「ネット!ネットで対局せんね?」
「ネット?」

首をかしげる私に、ネットで対局出来るサイトがあること・遠くにいる知り合い同士でもネットを通じて対局出来ること等を簡単に説明してくれた。
そんなすばらしいシステムがあるとは…!ネットってすごい!なんで今まで知らなかったんだろう…。
ネットの凄さに軽く感動しながら、千歳さんとアドレスの交換をして対局サイトを教えてもらう約束をした。

「対局楽しみしてます」
「うん。また連絡するけんね。…ほんなら、気ぃつけて帰んなっせ」
「はい。今日はありがとうございました。千歳さんも部活頑張って下さいね」

広間のドアまで見送ってくれた千歳さんに手を振り別れる。
あー、今日は楽しかった。将棋三昧の一日だったな。将棋仲間が増えたのも嬉しいし、すばらしい一日だった。とホクホクした気分で、祖父が待つ場所まで駆け足で急いだ。
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