春うらら

□第三十六話
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夏休み終盤。リビングのソファに寝転んで、のほほんと過ごしていたある日の夕方、丸井さんから電話がかかってきた。

「はい」
「あ、もしもし名無しの?」
「うん、どうしたの?」
「今度の日曜日さ、花火大会食い倒れツアーしねぇ?」
「……え?花火大会?食い倒れツアー?なにそれ。そんなツアーあるの?」
「ちっげぇよ。隣町で花火大会があって、屋台がたくさん出るから買い食いしまくらねぇ?っていってんの」
「うわ、楽しそう!」
「だろぃ?」
「うん!行く!食べまくる!」
「オッケー。なら、また連絡するわー」
「はーい」

携帯を閉じながら、丸井さんはいつも突然誘ってくるなぁ。まぁ、出不精の私にとってはありがたいお誘いだったけど。せっかくの夏休みなんだし夏の風物詩的なものに参加するのも良いだろう。なにより縁日の食べ物は全部美味しそうなので非常に楽しみだ。屋台で何食べようかな。とニヤニヤしていたら、また携帯が鳴った。今度の着信相手は仁王さん。
なんだろう?あ、仁王さんも食い倒れツアー行くのかな。と思いつつ電話に出る。

「はい、もしもし」
「名無しちゃん?仁王じゃけど。今大丈夫?」
「うん。大丈夫だよ」
「そっか。……何しとったん?」
「ソファでゴロゴロしてたー」
「食っちゃ寝してたら太るぜよ」
「………なぜ食っちゃ寝しているとわかった」
「プリ、」

なんてダラダラとお喋り。5分ほどくだらない話を続けていると仁王さんの口数が徐々に減ってきた。
うーん、眠いのかな?仁王さんは眠くなると口数が減ってくるのだ。そのくせに私が「眠いなら電話切って寝た方が良いよ」と言うと「イヤじゃ。名無しちゃんの鬼」とか言ってくる。全然意味がわからない。鬼の要素ゼロ。なんだったら気遣ってるはずなんですけど。……まぁ、何にせよ眠いなら寝た方が良い。そう言ってあげよう。

「仁王さん?」
「ん?」
「もしかして眠い?」
「え?いや、大丈夫。今日は」
「今日はってなに。今日はって」
「え、いや、うそうそ。いつも眠くないぜよ。だから電話切らんで」
「えー…」

本当だろうか。まぁ、いつもの寝落ちしかけの時の声に比べればハッキリしてるし……。うーん、眠くないならなんで徐々にだんまりになるんだろう。なんかあったのか?

「……」
「なんかあったの?」
「……」
「え、黙るの?」
「……」
「え、どうしたの?」
「………名無しちゃん」
「ん?」
「今度の日曜日、隣町で花火大会あるん……知っとる?」
「あ、うん(さっき丸井さんが言ってたやつだよね)」
「その花火大会、一緒に行かん?」
「うん。いいよ」
「え」
「いいよって」
「え、マジで?」
「うん。丸井さんの『花火大会食い倒れツアー』に一緒に行くんだよね?」
「………………は?」
「あれ?違うの?」
「………………え?」

あれ?おかしいな。仁王さん知らなかったのかな?あれ?と首をかしげていると電話の向こう側から「そういえば今日部活ん時ブンちゃん言うとった……」とか「食い倒れツアーって…」と小さい声で聞こえてきた。

「あ、やっぱり丸井さんから聞いてた?」
「え、うん………」
「なんだ。知らない雰囲気だったから焦ったよ」
「あー………すまん……」
「全然良いけどさ」
「で、名無しちゃんは食い倒れツアーに……?」
「行くよ。食べまくるよ」
「じゃろうな……。じゃぁ浴衣は……?」
「浴衣ぁ?そんなの着ないし。帯苦しいし、お腹いっぱい食べれないもん」
「……………………」
「あれ?もしもし仁王さん?」
「…………名無しちゃんヒドイ」
「え、どこが?」

変な仁王さん。急にテンションだだ下がりじゃないか。食い倒れツアー行きたくないのか?などと思いながら仁王さんに「当日何食べようか?」とか「お好み焼きははんぶんこしよう。多いから」などと一方的に話していたら「たこ焼き食べたいナリ」とか「うん、はんぶんこしよう」とか徐々に口数が戻ってきたので少しホッとする。
良かった。行きたくないわけじゃないみたいだな。まぁ、行きたくないなら私を誘ったりしないか。

その後ダラダラと無駄話を続けて、1時間程話した辺りで電話を切った。
んー、今日は長電話しちゃったなあ。仁王さんの電話代大丈夫だろうか?と思いながら、晩御飯を作るため台所へ向かった。

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