春うらら

□第三十七話
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「これは暴力じゃなくて躾だから」
「躾なんかせんでも俺行儀良いもん」
「………」

更にイラッとしたので、もう2・3回殴っていると丸井さんに止められた(「ちょちょちょ、何してんだよ」「丸井さん止めないで。これ躾だから」「いやいやいやおかしいおかしい。仁王も殴られてんのにニヤニヤすんな」「プリ、」)。

その後、なんやかんやと騒ぎながらも屋台を見て回ることに。もちろん買い食いがメインだが、途中で射的をやったり(仁王さんが上手かった。デカイポッキーをとってもらった)、金魚掬いを三人で競ってみたり(結果は丸井さんの一人勝ち。隣にいた子供に出目金をあげていた)、お面を買ってみたり(お面を付けた三人の写メを撮ってみた。待ち受け画面に設定された)した。
散々遊んで、散々食べて、お腹もいっぱいになってきた辺りでデザート代わりのチョコバナナを頬張りつつ「花火どこで見ようか」と二人に声をかける。

「そうだなあ………河原の方は?」
「えー、あそこ人多そうやき嫌じゃ」
「文句言うなよ。他に場所ねぇじゃん」
「そうだよね。河原行こうか」
「え〜…」

嫌じゃ嫌じゃと駄々をこねる仁王さんを丸井さんと一緒に引っ張って河原へ向かう。
ていうか、今まで散々人がいっぱいいる場所にいたのに何故急に嫌がるのかわからない。お祭りなんだからどこいっても人は多いだろう諦めろ。と思っているうちに河原に到着。
うわぁ、仁王さんの予想通り人がたくさんいるなあ。………ていうか、カップルらしき二人組が多い気がする。………なんか気まずいし…居づらい。

「……………カップル多くね?」
「……………多いね」
「だから嫌じゃって言うたのに………」

ハァ、とため息をつく仁王さんに「どういうこと?」と丸井さんと二人で聞くと「ここの河原、カップルでハート形の花火を見たら幸せになれるとかいうジンクスがあるんじゃ」と教えてくれた。
へぇー、そんなのがあるだ。なるほど、そりゃカップルで見に来るよね。みんな彼氏と幸せになりたいもんね。
丸井さんに「まぁ、とりあえず適当に座ろうぜ」と促され、なるべくカップル達の邪魔にならなそうな場所に移動して腰を下ろす。
そして、河原に来る道中で買ったかき氷を食べながら、三人で談笑していると突然周りから歓声が聞こえた。
どうやら打ち上げ花火が始まったようだ。色とりどりの花火が次々と上がっていく。
おー…!凄い綺麗!打ち上げ花火なんて久しぶりに見たなあ。うわー…!綺麗だなあ。こんなに綺麗な花火を見ながら食べるかき氷は格別に美味しい…………………………あれ?
なんだかかき氷の量がおかしい。明らかに自分が食べた量以上に減っている。
あれ?おかしいな…?こんなに減るぐらい食べたっけ?…………もしや、誰かに取られてる……?いや、さすがかき氷は盗られな……………ん?

「……丸井さんなにやってるの」
「あ、バレた?」
「バレるよ!ていうか、見えたし!明らかに私が食べた量より減ってるからね!」
「いやー、ブルーハワイ飽きてきたからさー」
「だからって人のものを横から食べるのはどうかと思うんだけど」
「だってお前のイチゴ美味そうなんだもん」
「もん、じゃないよ!丸井さんのも食べてやる!」
「うわ、バカ、やめろ!溢すだろ!」

ぎゃぁぎゃぁと騒ぎながらお互いのかき氷の奪い合いをしていると、いつの間にか打ち上げ花火が終わっていた。
結局、かき氷を奪うことも出来ず(というかお互いに暴れたせいで溢してしまった)、花火も最後まで見ることも出来ず、挙げ句の果てには仁王さんに「お前さんら、いい加減にしんしゃい」と怒られてしまった。
怒られてもなお「だって丸井さんが悪いんだよ!」「お前が暴れるからだろうが!」と二人で言い合いをしていたら、仁王さんがため息をついて、リンゴ飴をおごってくれた(「え、俺の分は?」「ブンちゃんは無しじゃ」「ひでぇ、差別だ!差別!」「うるさい」)。

私にリンゴ飴を渡しながら「名無しちゃんも暴れるのは良くない。女の子なんじゃからケガしたらどうするん?食い意地もほどほどにせんとなんたらかんたら〜」と説教してくる仁王さんがだんだんと柳生くんに見えてきて、さすがパートナーだな、と思いながら「ごめんなさい」と謝って、リンゴ飴をかじった。
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