春うらら

□第三十九話
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二学期の目玉行事、文化祭。ついこの間夏休みが終って、すぐ直前に体育祭が終わったばかりなのに、もう文化祭。
去年も思ったがスケジュールがハードすぎやしないだろうか。もうちょっと余裕をもったスケジュールに改良すべきだよ。詰め込めば良いというもんじゃない。などと考えていたら、教壇に立つ学級委員の入野くんの「これで良い方は挙手してください」という声が聞こえてきたので、慌てて意識をホームルームに戻す。

今、文化祭のアレコレ(出し物とか)を決めるホームルームの最中なのだ。
ぼんやりしていたので、なんの裁決を取ってるのかわからないがクラスの大半が手を上げていたので私も手を上げる。まぁ、私が手を上げようが上げまいが結果は変わらないと思うけど、参加している風を装うために、とりあえず挙手。
一体なんの裁決だったんだろう。と黒板を確認すると、文化祭の出し物の最終裁決だったようだ。どうやらうちのクラスは劇をするらしい。ちなみに演目はシンデレラ。
少し定番すぎないか?そんな王道でお客さん来てくれるのか?なんて思ってる間に、つぎは配役を決める裁決になった。立候補者が誰もいなかったので、シンデレラ役も王子様役も魔法使い役も推薦で選ばれて、裁決をとるみたいだ。

「えー、ではまず、王子様役の推薦をお願いします」

と、入野くんが言った瞬間、クラスの女の子たちがもの凄い勢いで挙手をした。
……え、なに?なんなの?ていうか、まず主役のシンデレラから配役を決めるもんじゃないの?そもそも出し物が劇に決まったのに、誰も配役について立候補しないってどういうこと?せめて「文化祭は劇をやりたい」と言った人は、何かしらの役がやりたかったんじゃないの?あ、脚本の方がやりたかったとか?
私が色んな疑問を抱いている間に入野くんが、ビシッと腕を伸ばして挙手してる小城さんを当てる。

「小城さん」
「はい、…王子様役は幸村くんが良いと思います」

小城さんがハッキリキッパリそう言うと、クラスの女の子から拍手が起こった。
……あぁ、なるほど…わかった。みんな「劇」がやりたいわけでも、やりたい「役」あるわけじゃなくて、「王子様役の幸村さん」が見たいだけなんだな。そりゃ、普通の時でも王子様っぽいのに、王子様の衣装を着た幸村さんはさぞイケメンな王子様になるだろう。
うんうん。と一人納得していると、隣の席の幸村さんから不穏な空気が漂ってきた。ちらり、と横目で幸村さんを見ると、いつものニコニコ笑顔ではあるものの目が笑っていなかった。
……こわっ。何かにご立腹らしい。この顔はイラついてる時の顔だ。
イケメンスマイルと悪巧みスマイルの他に、イラつきスマイルの見分けがつくようになってきたので(よく「仁王がサボってたんだよね」とか「赤也を叱る弦一郎の声がうるさくて」とか言いながらイラつきスマイルを浮かべている)、何にイラついてるんだろうか。と考えていると、幸村さんが軽く手を上げながら口を開いた。

「あの、俺に王子役なんて大役、務まらないと思うから辞退させてもらいたいんだけど」
「え、そんn「ええぇ?!」
「そんなことないよ、幸村くん!」
「そうだよ!幸村くん以外王子様役は務まらないよ!」
「あたし、王子様役の幸村くん見てみたい!」
「私も!」

入野くんの言葉を遮って、クラスの女の子たちが口々に幸村さんの辞退を引き留めにかかる。
うわぁ…、幸村さん大人気だな。さすが王子様。女の子たちの熱意に軽く引きつつ、横目で幸村さんの様子を確認する。
望んでもいない王子様役をやらされそうなことに大層ご立腹の様子で、先程よりイラつき度が増したスマイルを浮かべている。
きっとこの笑顔の真意がわからなければ、少し困ったように微笑む王子様に見えるだろうが、私には恐ろしい悪魔の笑顔にしか見えない。
ちょー怖い…。なかなかにイラついていらっしゃる。このままゴリ押しで王子様役押し付けられたらキレるんじゃないだろうか。隣に時限爆弾がある気分だ。いつ爆発するか…。
内心ヒヤヒヤしていると、入野くんすら「女子もこう言ってるし、俺も王子役は幸村しかいないと思うんだ。お願いできないか?」と引き留めにかかり、クラス男の子たちも「そうだよ、幸村が適任だって」「似合うと思うぜ?」などと無責任な発言をし始めた。
や、やめてください…。これ以上幸村さんのイラつき度を増やさないで下さい…。さっきまでとは比較にならないほど隣からただならぬ空気が漂ってきてるんですけど…。
ついに爆発するか?とドキドキしながら幸村さんを見ていると、急に幸村さんがこちらを向いた。そして、恐ろしいほどの悪巧みスマイルでにっこり笑う。その笑顔まま「………なら、名無しのさん
がシンデレラ役やってくれるなら、王子役やってみようかな」と、とんでもないことを言いだした。

「「「え?」」」
「…は?」
「ね、名無しのさん。良いよね?」
「は?!え?!私?!無理!無理です!ていうか、嫌です!」

幸村さんの発言にポカンとするクラスメイトを余所に全力で拒否する私。
なぜ私がシンデレラなんだ…!おかしいよ…!ていうか、絶対幸村さんは自分が王子役を辞退出来ない腹いせに、私にシンデレラ役を押し付けているだけだろう…!
全力で拒否しながら幸村さんの表情を確認すると、先程とは一変し、晴れやかな笑顔を浮かべている。
うわあ…、すっごい良い笑顔。これはアレだ。私に嫌がらせができたからだな。くそぅ、絶対にシンデレラだけはやりたくない…。
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