春うらら

□第四十話
1ページ/1ページ

「えー、それでは!シンデレラが大好評だった文化祭を祝して!かんぱーい!」
「「「かんぱーい!」」」

クラスのほとんど全員が集まって、焼肉屋さんにて文化祭の打ち上げ。グラスを持った入野くんの声に合わせて、みんなで乾杯する。
いやあ、文化祭が大盛況で本当に良かった。幸村さんの王子様姿を見たお客さんたちの歓声ったら凄かったなあ。アイドルのコンサートばりの歓声だったし、幸村さんが台詞を言おうと口を開くと、みんな合わせたかのようにピタッと歓声が止むところが面白かった。あと、うちのクラスとは関係ないけど仁王さんと丸井さんのクラスの劇もすっごく面白かった。丸井さんのコブタ姿があまりにハマり過ぎていて、登場した瞬間から爆笑してしまった。劇が終わってから丸井さんに「お前笑ってんなよ!」「え(なぜバレた)」「舞台の上から見えたんだよ!」と理不尽に怒られたりしたけど。彼にはまた是非コブタ役をしてもらいたい。

文化祭の思い出に浸りながら、目の前で光輝くお肉を丁寧に網に乗せていく。せっかくの焼肉食べ放題に来たのだから、打ち上げも楽しみつつ、お肉も楽しまなければ…!
せっせっと愛しのお肉ちゃんを網に乗せ、綺麗に焼き上がるように見張り、ベストな状態で焼き上がったら、丁寧にタレをつけて一口でカプリ。
………!………うま!さすが私…!ナイスな焼き加減だ…!
空腹のお腹に染み渡るお肉に感動しつつ、さらにもう一枚焼こうとお肉のお皿に手を伸ばすと、横に座っている小城さんがお肉のお皿をガッとつかみ、手当たり次第にお肉を焼き始めた。

「ちょ、待って待って小城さん!」
「えー…もう名無しちゃんの焼き方まどろっこしいんだもん。全部焼けば一緒だよ」
「え、いや、ちょ、」

な……なんという事だ…。私の愛しのお肉ちゃんたちが次々に網に横たえられていく…。これじゃ一枚一枚丁寧に焼いてあげれらない…!
ショックの余り軽くフリーズしていると、向かいに座っているハナちゃんと幸村さんが同時に吹き出した。

「「ぶっ、」」
「笑わないでもらえますか…」
「だってその絶望的な顔…!」
「名無しのさんって顔芸うまいよね」
「……顔芸じゃないんで。真剣なんで」

ヒ、ヒドイ…。ここのテーブルは鬼ばっかりだ……もういい。自分用のお肉を準備して、こっそり焼いて一人でお肉を堪能しよう…。と思い、キャッキャッとはしゃぐ三人を尻目に一人で席を立つ。
ここの焼肉屋さんはバイキング形式の食べ放題で各自自分でお肉を取りに行くスタイルなので、お皿を手にとり、お肉を吟味していると後ろから声をかけられた。

「名無しの?」
「? あ、丸井さん」
「よっ!お前も来てたんだな」
「うん。文化祭の打ち上げで」
「へー。幸村くんも来てんの?」
「うん。王子様だもん」

なんてお喋りしなから、お肉をお皿へ。ちなみに丸井さんはジャッカルさんとモジャモジャくんとで来たらしい。丸井さんが、話しながらも真剣にお肉を選ぶ私に「お前、必死だな」とバカにしたように言ってくるので「良いお肉を丁寧に焼いたら、食べ放題でもバカに出来ないぐらい美味しくなるんだよ!」と力説すると「そこまで言うなら俺の肉も焼いてみろぃ」と言って、なぜか丸井さんたちの席に連れていかれた。

「え、ちょ、引っ張んないで」
「うっせ。いいから来いって。………おーい!名無しの連れてきたぞー!」
「え?名無しの?」
「チーッス!」
「アハハ…、どうも」

き、気まずい…。全員初対面じゃないにしろ仲が良いわけじゃないのに突然連れてこられたので、つい苦笑いが浮かんでしまう。
そんな様子を察したジャッカルさんに「悪いな。ブン太が…」と謝られてしまった。
ジャッカルさんが悪いわけじゃないのに…。この人きっと丸井さんの世話で苦労してるんだろうな…。と思いながら「いえいえ。全然大丈夫です」と返事をする。

「おい、早く焼けって」
「はいはい、焼く焼く」

少しジャッカルさんと話していただけなのに駄々をこねる丸井さん。ほんと子供だな。ちょっとも待てないのか。
心の中で溜め息をつきながら、お肉を網に乗せていく。とりあえず三人の為に三枚だけ焼こう。丁寧に焼いていく私に「うーわ、まどろっこしい!」とか「先輩、そんなけじゃ俺たんねーッスよ」とか「ちょっと丁寧過ぎないか?」などと言われながらも、満足のいく出来映えに焼き上げ、三人に差し出す。

「タレを程よくつけて、一口で食べててみて下さい」
「お前……食い方まで指定すんのかよ…」
「いいから!黙って食べる!」
「へーい…」
「うぃーす」
「わ、わかった…」
「「「………」」」
「…どうですか?」
「「「美味い!」」」
「でっしょー?」

よし!三人の舌を唸らせてやった!うん、満足。私の焼き方は間違ってない。
満足したので「じゃ、私は戻ります」と席を立とうとしたら、丸井さんに腕をつかまれ「どこ行くんだよ。まだ焼いてけって」と言ってトングを持たされた。

「いや、あの、」
「ぃよ!焼き奉行!」
「先輩の肉最高ッスね!量はたんねーッスけど!」
「焼き方だけであんなに美味くなるなんてなあ」
「………」

すっごく褒めてくれる三人に気分が良くなった私は、席に座り直し再度お肉を焼く作業を開始することにした。

その後、お肉を焼き上げる度に絶賛してくれる三人に持ち上げられ、次々にお肉を焼いていると、いつまで経っても戻らない私を心配して、幸村さんが探しに来てくれた。
お肉をせっせっと焼く私に溜め息をつきながら「名無しのさん……何やってるんだい?もう戻るよ。……丸井、ジャッカル、赤也。後は自分たちで焼くんだ。良いね?」とイラつきスマイルを向けてきた。
幸村さんのイラつきスマイルに焦る三人を見ながら、テニス部でも幸村さんのスマイルの怖さは浸透してるんだな。と思いつつ、焼き上がったお肉をお皿にのせた。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ