庭球のお話

□笑顔になる話
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うきうき。わくわく。どきどき。
最近、恋に落ちた私はとても感情豊かになっていると思う。今だって挨拶してもらっただけで、こんなに幸せな気持ちになった。

「名無し、おはよー」
「おおおはよう!謙也くん!」
「ぶは、どもりすぎやろ」

ちょっと吹き出して自分の席に向かう謙也くんを見つめる。うへへ。挨拶した。笑顔見れた。嬉しいな。

「おい、ニヤニヤすんな。キモいで」
「うっさい。勝手に見んな。エクスタ野郎」
「口悪過ぎるやろ。女の子なんやからおしとやかにせえ」
「うっさい。お母さんかよ」
「ちゃうわ。お前みたいなんが子供やったら泣くわ」

うっぜー!なんだこいつ。勝手に見といてキモいだのなんだの。無視したいけど、無視した方がウザさが増すから、嫌々ながら返事をする。なんでこんなやつが隣の席なんだ。
友達とかは「白石くんカッコイイ!優しい!」とか言ってるけど、私にはまったく理解出来ない。顔はイケメンなんだろうけど、口癖はキモいし(エクスタシーとかキモくない?)、口やかましいし、健康オタクだし、本当に理解できない。

「謙也もスピードオタクやし、イグアナ飼おてるし、キモいやろ」
「謙也くんはキモくない!てか、心の声読むな!」
「読んでへんわ。お前が単純やからわかりやすいだけや」

イッライラする、このエクスタ野郎。なんで私が悪口言ってるのわかったんだ。このエクスタ野郎に私の恋心がバレしまっているのが本当に腹立たしい。

「謙也はおしとやかな女の子が好きなんやって」
「………」
「女の子らしい子が好きなんやって」
「………」
「口悪い子は嫌われんでー」
「ううううるさいな!」
「動揺しすぎやろ」

謙也くんがおしとやかな女の子が好きなのは知ってるよ!だから、なるべく謙也くんの前ではおしとやか風を装ってるのに、エクスタ野郎が話しかけるせいで口の悪さが出ちゃうんだよ!

「あんたのせいじゃん!」
「俺なんもしてへんから。お前の口の悪さが原因やろ」
「あんたが話しかけなかったら大丈夫だし!」
「アホか。元の口の悪さを直さな意味ないやろ。アホか」
「んぎぃぃぃ!アホって二回も言うな!」
「んぎぃぃぃ!て。アホか」

ムカつくムカつくムカつく!エクスタ野郎と話してたら頭の血管ぶちぎれそうだ。なんでこんなやつが謙也くんと親友なのかわからない。ムカムカしていると謙也くんがエクスタ野郎の前の席に座った。

「また言い合いしてんのか。仲良しやなあ」
「おう、謙也。お前もこいつに言うたってや」
「何を?」
「お前口悪s「うわああああ」やかましいねん」

信じられない!エクスタ野郎のバカ!謙也くんにそんなこと言われたら私のガラスのハートが壊れる!ていうか、仲良しじゃないって否定しろ!

「名無し…大丈夫か?」
「だだ大丈夫!全然!平気!」
「そ、そうか?ほんなら、ええねんけど」

謙也くんが若干ひいてる気がする。ちょっと、いやかなり悲しいけど、まあ良い。ふう、と一息ついていると謙也くんに「てか、最近名無しおかしいで?なんかあったんか?」と言われてしまった。
なんかあったんか?って、あなたに恋をしてしまいました!なんて言えないし、どうしよう。上手くはぐらかさないと…

「えええ、なんかおかしいかな?普通だ、よ?」
「いや、おかしいやろ。どもってるし」
「え、いや、うん。どもっちゃうの癖なんだ」
「嘘やろ。最初の頃は普通やったやん」
「うぇ?!いや、えっと、そんなことは…」
「それに俺と喋る時だけどもるやん」
「え、いやいやいや、ちがうよ、うん、え、うん」
「なんでなん?」
「えええええと、いや、その…」
なぜ!なぜこんなに謙也くんに詰められるのか。謙也くんってこんなキャラだったっけ?詰め寄ったりするの苦手だと思ってたよ。しかも詰め寄りつつ、私の前の席に移動してるし!近い!ドキドキする!ヤバイ!ヘルプ!ヘルプミー!
エクスタ野郎にアイコンタクトを送るも無視された。あんのやろう、呑気に通販カタログ見てやがる!次はどんな健康グッズ買うつもりだ!

「なあ、なんで最近俺と喋る時だけどもるん?」
「う、え」
「……俺なんかした?」

謙也くんの顔が悲しい顔になる。嫌だ。こんな顔は見たくない。私は笑ってる謙也くんの顔が好きだ。そんな顔しないで。うう。顔近い。うう。顔近いのに。せっかく近いのに笑顔じゃない。悲しい顔。うううううう……

「違う!違います!全て私のせいです!謙也くんは全く悪くない!ごめん!」
と、大きな声で叫んで教室を飛び出した。
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