庭球のお話

□笑顔になる話
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教室を飛び出して屋上まで来たけど、ドアが開かなかったので踊り場?で座り込んでる。チャイムの音が聞こえてきた。授業始まっちゃったなあ…。
あー。頭の中で謙也くんの悲しそうな顔がぐるぐる回ってる。

確かに最近の私の態度良くなかったよね。ちょっと話しただけでどもるとか感じ悪いよね。そういえば笑顔とか向けた記憶もない。だってドキドキしすぎて上手く笑えなくなる。赤面しないようにするのに必死だった。固い表情でどもって会話されたら嫌だよね。あーあ。あーー。私のバカ。

この気持ちに気づく前は良かったな。エクスタ野郎と席が隣同士になってから謙也くんと話すようになって、無駄話したり、エクスタ野郎と一緒に謙也くんのMCっぷりを評価したり、変な形の消しゴムみせてもらったり。スピードスターっぷりに爆笑したり。楽しかったなー。あの時は特別何かを意識することもなかった。

いつからだっけ。謙也くんと話す時どもるようになったの。好きだって自覚し初めた時は確かにドキドキしてたけど、それ以上に、話せることとか笑顔が見れることが嬉しかったから、どもってはいなかった。嬉しくていつも笑顔で話してたっけ。
あー、そうだ。笑顔で話してたら「めっちゃ笑顔やな!名無しの笑った顔ええなあ!元気でる」って言ってくれたんだ。そのときの謙也くんがすっごくかっこよくて、胸がきゅぅぅってしたんだ。
あー、そうだ。それから。それから自分の表情とか意識しすぎて、まともに話せなくなったんだった。
あーあ、バカだな私は。せっかく謙也くんが褒めてくれたのに。意識しないで笑顔でいれば良かった。そしたら謙也くんも笑顔でいてくれたかもしれない。少なくともあんな顔しなかったはずだ。
あーあ。朝は挨拶してもらって幸せな気分だったのに、今はへこむ一方だ。

あんな捨てゼリフ的な感じで謝って謙也くんはどう思っただろう…。もう私のこと嫌いなったかもしれないな。………………。うううううう。それは嫌だ。嫌われたくない。ううう…。かなり気まずいけど、キチンと謝ろう。うん。そしてどもってた理由は…なんて言おう。意識しすぎてたって正直に言ったら告白してるようなもんじゃない?…だめだ。正直に言うのはダメだ。うう。なんて言「名無し、こんなとこおったんか…」

グダグダと考え事をしていたら、息を切らせた謙也くんがいた。

「えぇ…!?ななんでいるの!?授業は?!」
「しー。声でかいって。授業はサボった」
「サボ…!?」
「やってサボらな追いかけられへんやんか」

と、言いながら目の前に座った謙也くんを思わず見つめる。う…!何この人イケメンすぎる…!胸がぎゅぅぅってしたよ、今。…そこまでして追いかけてくれたんだ。嬉しい。良かった。嫌われてないかもしれない。嬉しすぎてちょっと泣きそう…。

「…え!?なんで涙目なん?」
「いや、これは…(嬉し涙です)」
「………そんなに嫌やった?」
「……え?」
「涙でるくらい俺が追いかけ来たん嫌やった?」
「え…?」

いやいやいや。何をそんなバカな。そんなわけない。嬉しすぎるぐらいだよ。とか、心の中で否定してたら謙也くんの顔がまた悲しそうな顔になった。
ああ、ダメ。ダメだ。嫌だよ。そんな顔しないで。謙也くんの表情を見て、緩んでいた涙腺がさらに緩む。心の中は伝えたい言葉でいっぱいなのに、喉がつまって声にならない。うう。私のバカ!早く声にだして否定しろ!
焦る。すると、ポロリと。涙が目から落ちてしまった。

「……ごめんな。泣くほど嫌やったとは思わんかってん。ごめん。もう行くから泣かんといて?」

今まで見たことがないくらい悲しい顔して、謙也くんが立ち上がろうとする。
ダメだ。今否定しないと。行かないで!って。でも、声にならない。だから謙也くんの手を掴む。びっくりしてるのが伝わる。驚いた表情が涙越しに見える。どうにかこうにか、声をだす。

「っく…、い、行かないで…っう」
「名無し…」
「っ、ちが、違うのっ…嫌じゃな、いっ…っく」
「………じゃあ、なんで泣いてるん?」
「うっ、追いかけ、てくれると思ってな、くて…嬉し、泣き…っ」

泣きながら、つっかえながら伝えると謙也くんは大きなため息をついて「嬉し泣きて…お前…紛らわしいわ…」と言いながら掴んだ方とは逆の手で私の頭を撫でてくれた。
とても優しい手つきだった。そっと触れるように撫でてくれるその手に私の涙腺は崩壊してしまった。
ぎょっとした謙也くんの顔がぼやけて見える。もう止められない。もう無理だ。涙も。この気持ちも。好きだって言ってしまいたい。もういい。どうなってもいいや。全部ぶちまけてしまおう。
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