庭球のお話

□言い寄られる話
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「名無しのさん、おはよう」
「おはよう、白石くん」

ニコリ、と周りの女の子がきゃぁきゃぁと騒ぐような笑顔を浮かべながら挨拶をしてきたこの人は、うちの学校で一・二を争うイケメン、白石蔵ノ介くん。ついこの間、数合わせで参加した合コンで知り合ったのたが、それ以来私のことが好きだと言ってくる変人だ。
謙遜などではなく、私の容姿は至って平均値(下手すれば平均以下)だし、特別にナイスバディなわけでもなく普通の中肉中背。社長令嬢でもなければ、人から羨ましがられる特技もない。そんな私のどこが気に入ったというのだろう。

「名無しのさん。好きやねん、付き合ってくれへん?」

大学と学科が同じなので、嫌でも毎日顔を合わせるのだが、合わせる度に白石くんから言われるこのセリフに最近うんざりしている。毎日繰り返し言われる度に周りにいるギャラリー(白石くんの周りには基本的に女の子のギャラリーがいる)からギャァ!という悲鳴が上がって、それはそれはうっとおしい。
毎日のことなのになぜ悲鳴を上げるのか…。いい加減、慣れたらどうだ。と心の中でため息をつきながら口を開く。

「昨日も言ったと思うけど、お断りします」
「なんで?」
「タイプじゃないから」
「名無しのさんのタイプってどんな人なん?」
「白石くん以外」
「ひどいな〜」

ハハハ、と困ったように笑う白石くんの周りで女の子たちが「ちょっとあの子ひどない?」「調子乗ってんちゃう?」と騒ぐ。
…あーもー…面倒くさい。断らなければ断らないでぎゃぁぎゃぁ言うくせに、断ったら断ったで騒ぐなんて…理不尽だな。私にどうしろと言うんだ。
騒ぐギャラリーにイラッとしたので、更に何か話しかけてこようとする白石くんをかわし、逃げるように校舎に入った。




「あー……疲れた…」
「アハハ、朝からお疲れやったもんなあ。今日も白石くんにラブコールされたん?」
「うん……もう嫌だ」
「贅沢もんめ〜。あの合コン、あんた以外の女子全員白石くん狙いやってんで」
「私何もしてないからね。飲み食いしまくったせいで私の隣に座った男の子なんてドン引きしてたぐらいなのに」
「そーやんなぁ。白石くんあんたのどこが良かったんやろ?」
「全然わかんないよねぇ」

午前の講義が終わって、校舎内にあるカフェテリアでミナミちゃんとお喋り。
私は合コンで彼氏を見つける気がちっともないので、可愛げもなく男の子ばりに飲むし食べる。白石くんと会った合コンでもいつものように散々飲み食いしたあと「メアド教えてー」「今からカラオケ行けへん?」とはしゃぐみんなを尻目に一人で終電に乗ったほど、男性陣に対する愛想はゼロだったはずなのに一体なぜ…。
ため息をつき、氷が溶けて不味くなったアイスティーをズゾゾゾゾと音をたてて飲んでいると後ろから声をかけられた。

「よ、名無しの!」
「あ、謙也だ。久しぶり〜」
「久しぶりやなあ。ミナミちゃんも久しぶり」
「ほんまやなあ。ゼミに入ってから忙しいそうやん」
「やれ研究やー、やれ論文やー、いうて地味に忙しいわ」
「へぇー、大変だねぇ」

喋りながら、私の隣に座った金髪がチャームポイントの忍足謙也。入学式で偶然席が隣同士になって以来の友達だ。
久しぶりに会った謙也とミナミちゃんとでペチャクチャ喋っていると「俺もまざっていい?」と突然白石くんが割り込んできた。

「あ、白石くん!どうぞどうぞ座ってー」
「ありがとう」
「なんや白石もこいつらと知り合いやったんか」
「おん。この前の合コンでな」
「………え、この前の合コンって………」

うわ、最悪。白石くんが来たよ…。とげんなりしていると、謙也が何やらブツブツと呟きながら私の顔を凝視してきたので、なんだ、とばかりに横目で睨む。

「ありえへん………なぁ、白石!」
「ん?」
「お前が今ハマッてるやつって、こいつのことなん?!」

信じられない、という顔をしながら私を指差してくる謙也。
失礼なやつだな、指さすなよ。と不機嫌な顔で謙也を見ていると、白石くんが「おん、そうやで。ていうか、指さすな」と注意してくれた。

「あ、すまん………じゃなくて!え、ほんまに言うてんの?」
「? おん、ほんまやで」
「いや、俺、お前がハマるぐらいやからどんな美女かと思ってたのに…。ほんまにこいつなん?めっちゃ普通やん!」

私が黙っていることを良いことに、好き放題言ってくる謙也に内心イライラしていると、ムッとした顔の白石くんが口を開いた。

「普通ちゃうわ。可愛いやんけ」
「……白石……お前……マジでか……。え、なんでなん?なんでそんなにハマッてんの?どこが良かったん?」
「えー?うーん、そうやなあ…………まず、ご飯の食べ方が綺麗なところかな。いっぱい食うてんのに綺麗に食べんねん。たぶん、箸の持ち方と姿勢が綺麗なんやと思うわ。あ、見てこの写メ。…な?箸の持ち方綺麗やし背筋も綺麗やろ?」

見て、といって見せられた携帯には私が学食のカツ丼を頬張ってる姿が写っていた。
……な、なんだコレ…。いつの間に撮ったんだ!?盗撮かよ!
ドン引く私達をよそに白石くんは次々に私の良いところを述べてくる。

「ご飯粒残さんと食べるとことかも良いし、日本酒ロックで飲むとことかもえぇよな。あ、あとスーパーで貰ったビニール袋取っとくとことか、野良猫おったらわざわざ触りに行くところも可愛いなあ。あ、見て見て。この名無しのさんと猫のツーショット。めっちゃ可愛くない?」

再び見せられた携帯には、私が猫を撫でている姿が写っていた。
………こ、これ……私の家の近くの公園なんだけど…。学校から電車で30分以上離れてるとこだよ…?え、なにコイツ。後つけてたの…?え、ストーカー?
恐怖で顔が強ばるのがわかる。ギギギと謙也とミナミちゃんの方に顔を向けると二人とも顔が青ざめていた。
……怖い。こんなに変な人だとは思わなかった…。ストーカーされてるかもしれないとか…。今後どうしよう…。ていうか、さっきから上げている私の良いところ微妙すぎだろ…。
ニッコリイケメンスマイルで「好きやで名無しのさん」と言ってくる白石くんに「……無理です」とだけ答えて、ダッシュでその場から立ち去った。


エンド!

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