庭球のお話

□「……仲直り、だな」
1ページ/2ページ

「うーん…、これは子供っぽいかなぁ…」

ポイッと手に持っていたワンピースを後ろに放り投げる。次は、カーディガンをつかんで広げて、これはちょっと違うな、とまた後ろに放り投げる。
これだけポイポイ放り投げているのに私の部屋が散らかることはない。後ろにいる蓮二がすぐに綺麗に畳んでくれるからだ。畳むだけでなく、スカートならスカート、ワンピースならワンピースと種類別に分けてくれているからすごく助かる。
蓮二は私のお隣さんで、学校こそ別々だが、こうしてお互いの家を勝手に出入り出来るくらいに仲が良い。たまに試験前には勉強も見てもらったりして、私にとっては頼れる幼なじみだ。

「うーん……ね、これどう思う?」
「ん?…あぁ、いいんじゃないか」

薄いピンクのスカートを見せると、畳んでいた手を止めて感想を言ってくれた。けれど、なんだか適当に言われた気がして、ちょっとムカッとしたので唇を尖らせる。

「その色もいいが、白も似合うと思うぞ」
「白かぁ…」

ピンクのスカートを放り投げて、白い短パンを手に取ると後ろで蓮二がフッと笑った声が聞こえた。






「よし、決めた!これにする!」

白のフリルがついたワンピースを片手に立ち上がると、蓮二がやっと決まったか、と小さく零した。蓮二の周りにはクローゼットから放り出された大量の服が整理整頓されている。なかなか服が決まらなくて手持ちの服のほとんどを放り投げたので、それを畳んでいた蓮二は疲れただろう。

「ありがとね」
「あぁ、気にするな」

やっぱり蓮二は優しいな。これだけ優しくてイケメンなのに未だに彼女がいないのが本当に不思議だが、まぁ、今は考えるのはやめよう。それより早く準備しないと。約束の時間におくれてしまう。
ワンピースをベッドに置いて、鏡へ向かう。髪の毛を整えていると、クローゼットへ服をしまってくれていた蓮二が話しかけてきた。

「どこか出掛けるのか」
「うん。合コン」
「合コン…?」

あれ?合コン知らない?蓮二に知らないことがあるなんて珍しいな。なんて、思いつつ鏡越しに視線を向けるといつの間にか蓮二が後ろに立っていた。

「うわ、ビックリした!気配消して後ろに立つのやめてよ」
「すまない。……それで、合コンに行くって?」
「あぁ、うん、そう。友達に誘われて」

昨日学校で「明日合コンやるよ!名無しも行くよね?」と誘われたので二つ返事で了承したのだ。青春時代をいつまでも彼氏無しで送りたくはない。今年のクリスマスこそ彼氏と二人で過ごしたい。それが私の今年の目標なんだから。

「いやぁ、蓮二が来てくれて助かったよ。一人じゃ服も決めれなかったし」
「………」
「あ、なんか用事でもあって来た感じ?」
「………」
「ごめんね。帰ったら蓮二んち寄るから」
「………」
「蓮二?」

返事がないので振り返ると、クローゼットを開けている蓮二が見えた。しかも、ベッドに置いたはずの白のワンピースがない。もしかして片付けた?

「ちょ、何してんの」
「ワンピースを片付けた」
「いやいや、なんで?着るんだから出しといてよ」
「……合コンとはどういうことだ」
「え。うーん…」

やっぱり合コンって何か知らないのか。蓮二は知りたがりだから知らないものがあるのが嫌なんだろう。
ファンデーションの顔につけながら説明する。

「合コンっていうのは、男女の出会いの場…的な?ご飯食べたり、みんなでお喋りして、仲良くなった子がいたら電話番号交換したり」
「それは知ってる」
「え、知ってるの?」

ビックリだ。ていうか、知ってて聞いたの?振り返ると、すぐ後ろにいた蓮二にファンデーションを奪われた。

「ちょ、返して」
「駄目だ」
「遅刻するじゃん」
「遅刻しろ」
「ひどっ」

突然なんなんの。ファンデーションを取り返そうすると、手を取られてしまった。グッと引いても離してくれない。思わず溜め息が出そうになるが堪えつつ視線を向ける。

「なんで邪魔するの?」
「わからないのか」
「わかるわけないじゃん」
「行って欲しくないからだが」
「それが意味わかんないんだけど」

邪魔されてるんだから行くのを良く思ってないのはわかる。どうせあれでしょ?彼氏なんてまだ早い的な。蓮二は古風なところがあるからな。でも私もう高校生なんだよ。別によくない?

「離してってば」
「なぜそんなに行きたがる?」
「彼氏が欲しいからですけど何か?」
「そんなものお前には必要ない」

カチンと来た。お前には必要ない…だと?そんなの蓮二が決めることじゃないよね?私の勝手でしょ!まだ早いって言われるならまだしも、必要ないとかヒドすぎる!
ギッと睨んで勢い良く手を振り解くと、蓮二にしては珍しく驚いたような顔をしていた。

「名無し…?」
「彼氏作ろうがどうしようが、私の勝手じゃん!ほっといてよ!」
「………」
「もう出てって!」

睨みながら言うと蓮二は「合コンなんて遊びたい男しか来ないんだぞ」とか「仁王や丸井のような遊び人しか来ない」だとか言われて私はブチ切れ寸前。極めつけに「襲われたらどうする」とか言われて、とうとう私の怒りは爆発して、蓮二を部屋から追い出した。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ