庭球のお話

□腐女子の話
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私は腐女子である。趣味で好きなカップリングの漫画を書いたりするぐらいに腐っているが、自分の趣味が他人に理解され難いのは十分に理解しているので、友達はもちろん親にもひた隠しにしてきた。本棚にBL本を並べたいのをグッと我慢してクローゼットの中に隠したり、好きな小説を読んで萌え苦しんでいる時に友達から電話がかかってきても平静を装って電話に出たり、他にも色々な努力をして隠してきたのだが、今、人生最大のピンチである。

「これお前さんじゃろ?」
「…………。ちがうけど?」

仁王くんが差し出した写真には、ばっちり自分が写っていたが否定する。本屋でBL本を買ってるシーンとか言い逃れ出来ない。世の中には「私は腐女子よ!」と公言している方々もいるらしいが私には到底出来ない芸当だ。豆腐メンタル舐めんな。腐女子キモッみたいな雰囲気になっただけで泣く自信がある。

「アップしたやつもあるんじゃけど」
「…………ち、ちがうってば」

さっきの写真がズームされて私の横顔がばっちり見えたけど再度否定する。ちらっと見えてる表紙から察するにアレはこの前出たお気に入りの作家さんの新刊じゃないか。確かアレは近所の本屋さんに売ってなかったからわざわざ東京まで買いに行ったのに…。なぜ仁王くんに見つかったんだ…くそぉ…。

「これ店から出て来たときの写真なんじゃけど」
「…………」

BL本を購入してから店を出るまでの一連の写真を扇開きにして差し出してくる仁王くん。なんでこんな大量に写真撮ってんの?怖すぎなんですけど。クラスメイトの触れてはいけないところなんだから、そっとしとけよ。イケメンだからって何しても許されると思うなよ。
思わず睨みつけるときゃぴっとした笑顔が返ってきた。

「面白そうじゃから撮っちゃった」
「そういうの盗撮って言うんだよ」
「プリ、」

プリじゃねぇよ、なんだよそれ。あああああもおおおどうしよう。ヤバいヤバいヤバい。バッチリ撮られてるよ。言い逃れも難しそうだし…。ていうか、そもそも仁王くんは私が腐女子だからってどうしたいの。迷惑かけてなくない?そっとしといてくんない?

「わ、私がもし仮に腐女子だとして、仮にだよ?仮にだからね?認めたわけじゃないから。まぁ、うん。仮に腐女子だとして。仁王くんになんの関係も無くない?」
「これ学校にバラ撒いていいんじゃな?」
「ごめんなさいやめてください」

とっさに謝ってしまった。パッと手で口を抑えたが遅かった。仁王くんがニャァと極悪な笑顔をしていた。
ちょーこわい。なにこの人ちょーこわい。真田くんよりこわい。
ガクブル震えていると極悪顔の仁王くんが口を開いた。

「バラ撒かれたくなかったら、俺の下僕になりんしゃい」
「…………………は?」

下僕?え、なにそれ。混乱する私を尻目に仁王くんはペラペラと下僕の仕事について話している。
授業のノートは俺の分も取れとか、いつでも指示があれば購買へ買い出しに行けとか、日直の仕事を代わりにやれとか、話を聞く限り下僕というより完全なパシリだ。それに仁王くんほどのイケメンなら下僕になりたがる女の子が沢山いそうだけど…。

「わ、私より下僕志望の女の子が大勢いるんじゃ…?」
「お前さん俺のことなんじゃと思っとるん?」
「…(悪魔だと思ってるとは言えない)…」
「下僕志望がおらんわけじゃないけど、進んでやりたがるヤツにやらせてもつまらんじゃろ」
「…(この人ドSだ)…」
「ちゅーわけで、これからよろしく名無しちゃん」

そう言うと私の頭を一撫でして仁王くんは去っていった。こうして私の下僕生活がスタートしたのである。
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