庭球のお話

□「イイ匂い…」
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長い1日が終わり、愛しのベッドちゃんにダイブしようと自分の部屋のドアを開けたら、雅治がいた。

「……………」
「………」
「……なんでいるの」
「プリ、」

プリじゃない出ていけ、とベッドに座る侵入者を蹴る。ヒドいとかなんとか言われたけど無視した。

「どこから入った」
「窓から」

私としたことがこの時間に窓の鍵を締め忘れるとは…。思わず舌打ちが出る。雅治が「え、舌打ち!?」と喚いてるがコレも無視した。

「出てけ」
「嫌」
「出てけ」
「嫌。一緒に寝る」

一緒に寝るって何?あんた何歳よ?もう高三だというのになぜ一人で寝れない。というか、いつも私が窓の鍵をかけて部屋に入れない時は一人で寝てるんだから今日も一人で寝れるだろうが。

「一緒に寝ない。私は一人で寝たい。だいたいさ、ベッドよく見て。シングルだから。一人用だから。二人寝るタイプじゃないの。まぁ、ダブルだったとしても一緒に寝ないけど。とりあえず物理的に二人で寝るのは不可能だから諦めて帰…………何してる」
「え?」

話聞けよ。真剣に話してるというのに聞きもせず何やらゴソゴソしていたかと思いきや、勝手にドライヤーを引っ張り出し、それを私に手渡す笑顔の雅治をぶん殴りたくなった。

「髪、濡れとるんじゃ。乾かして」
「……………」
「名無し?」
「……………」
「聞いとる?」

こてんと首を傾げる雅治。濡れた髪がパラパラと音を立てて肩に落ちるのを眺めながら深く深くため息をついた。

「なんでため息?」
「………」
「なぁ、名無し無視せんで」
「…………」
「名無しー。無視はヒドいぜよ」
「……乾かしてあげるから後ろ向け」
「はいっ」

なんで窓から侵入したんだとか人の話をちゃんと聞けとか髪の毛くらい自分で乾かせとか言いたいことは山ほどあるけど全部言わないことにした。だってどうせ言ったって雅治の「お願い」が出たら私の敗北なわけだし。言うだけ無駄だ。何を言ってもこいつは居座る気満々なんだから、だったら雅治の要望に応えて一刻も早く眠れるようにしたい。私は早く眠たいんだ。
ベッドに座る私の足の間に雅治が座ったのでドライヤーで乾かす。スルスルと指の間を銀色の髪が通っていく。こんなにブリーチで染めているのに痛んでいる様子一つない。こまめに手入れしているのだろうか。トリートメントとかしてたらちょっと引くわ。というか男がこんなに髪の毛長いってどうなの。襟足長すぎ。括るぐらいなら切ればいいのに。

「…名無し?」
「んー?」
「俺、名無しに髪の毛乾かしてもらうん好き」
「え、なんで?」
「手の感触が気持ちよかー…」
「そう?」
「ん、眠くなるナリ…」
「まだ寝ないでね。………はい、乾いた」
「…ん、ありがとさん…」

髪の毛を触りながらご満悦そうな雅治を横目で見ながらドライヤーを片付ける。目がショボショボしてるからこのままベッドに誘導すれば大人しく寝そうだな。雅治が眠くない時にベッドに入っても、お喋りしようとかなんとか言って中々寝かせてもらえないのだ。このチャンスを逃す手はない。

「はい、こっち。寝るよ」
「ん」

ベッドに引っ張り上げると大人しく寝転んだので肩まで布団をかけてやる。狭いベッドだ。否が応でもお互いくっつかなければならないので、雅治の頭の下に腕を通して腕枕をする。そしてそのまま雅治の頭を抱き込んで足を雅治の足の間にいれると雅治がクスクス笑い始めた。

「なに笑ってんの」
「名無しがくっついてくる」
「こうしないと狭くて寝れないんだっての」
「俺、抱き枕になったみたいじゃな」
「こんな邪魔な抱き枕いらない」
「ヒドい…」

グリグリ胸元に顔を押し付けてくるので、やめろと髪の毛を引っ張る。痛いとか言うわりに顔を押し付けてくるのを止めないので諦めて髪の毛から手を離した。

「名無しの匂いじゃ…」
「そんなとこに顔やってりゃ匂うだろうね」
「イイ匂い…」
「そら良かった」
「プニプニしてるし…」
「それケンカ売ってるよね?」
「褒めとるのに…」
「どこが?」
「プニプニして……気持ち、イイ…………」
「………」

こいつ…。人にプニプニとか言いながら寝やがった。ケンカ売り逃げされた。ムカつく。腹が立ったのでぎゅうっと雅治の耳を引っ張ってやったら眉間に皺が寄った。ざまあ。少しスッとしたので耳から手を離して髪の毛を梳いてやる。そうしているうちに自分も微睡んできたので目を閉じたらいつの間にか寝てしまっていた。



(ピピピピピ!)((……すぅ、…すぅ……))(ピピピピピ!)(…ん、…朝か…今何じ、いかん!遅刻!)(……すぅ……すぅ)(ちょ、名無し起きて!)(……んん、……)(名無し起きんでもいいから離して!)(んー……雅治うるさい)(名無し寝坊じゃ!遅刻!)(…え!?遅刻!?なんで起こしてくんないの!?)

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