庭球のお話

□「あんな目立つことして…アホ」
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私は今、立海大付属高等学校に来ている。

「そんなに隠す必要あんの?」
「私には必要なの」
「…変だよ?」
「気にしたら負け」
「………」

頭にタオルを巻きつけて、なるべく顔を周りに見せないようにしていたら友人に怪訝な顔をされたが、気にしてはいけない。友人にそんな顔をされるぐらいなんだ。私は雅治に見つかる方がよっぽど嫌なのだ。
前に一度だけ雅治の忘れ物を届けにここに来たことがあるのだが(その日は私が創立記念日とかで学校が休みだった)、私に飛び付いた雅治を見て女の子たちが悲鳴を上げて大騒ぎになったのだ。もうあんな騒ぎは起こしたくない。

「逆に余計目立ってると思うけど」
「悪いけどこれだけは外せない」
「はぁ?」

バカじゃね?的な視線を寄越す友人。そんな視線痛くも痒くもない。あぁ、どうか任務を果たすまでどうか雅治に見つかりませんように…!

「それより。テニスコートどっち?」
「あっちじゃない?たぶん」
「たぶんて」
「だってわかんないし」

なんだかんだと話しながらテニスコートに近付いていく。生け垣に隠れたり、水飲み場に隠れたりしながらゆっくりと。途中、友人から指示が出たのでチラリとテニスコートを確認したが女子の応援団らしき人混みが凄すぎてコート内に誰がいるのかわからなかった。

「周りに人がいすぎてわかんない」
「うーん、もうちょい近付くか…」
「オッケー」

さて次はどこに隠れるか、と見定めていたら不意に背後から声をかけられた。

「何してるんだい?」
「!」

パッと後ろを振り返ったら物凄いイケメンが立っていた。青みがかった髪がゆるくウェーブしていて、ヘアバンドをしている女の子みたいなイケメン。たぶんこの人だ!
立ち上がってポケットからデジカメを取り出す。コレでお願いすれば任務完了。意外にあっさり終わりそうな予感に喜びが隠しきれない。不思議そうな顔をするイケメンに「幸村くんですか?」と聞くと「そうだよ」と返されたので友人とハイタッチする。

「…あの?」
「あ、すみません。えっとですね、わたs」
「名無し!」

終わった。バレた。雅治に見つかった。と思った次の瞬間、体に衝撃。恐らく雅治が飛びついてきたのだろう。見なくてもわかってしまうのが悲しい。それとほぼ同時ぐらいに悲鳴が響き渡って、ほらだから来たくなかったんだよ、と友人に視線を向けたらドン引きな表情を返された。






悲鳴を聞きつけた部員たちに取り囲まれた私は部室へ強制連行された。ちなみに友人は私を置き去りにして逃げた。本気でありえない。私も後を追いたかったが雅治が邪魔で身動きがとれなかった。
部室にはイエロージャージ組だけが残り、他の人たちは練習に戻ったみたいだ。私は椅子に座って、テーブルを挟んだ対面にはヘアバンドのイケメンもとい幸村くんが座っている。他のイエロージャージがその幸村くんの後ろに立っているので、視覚的な威圧感がハンパじゃない。しかも黒の帽子の人の顔が尋常じゃなく怖い。視線を向けれない。まぁ、視線を向けれないのは雅治にもそうなんだけどね。さっきからビシバシ視線を感じているが一切合わせていない。合わせたら何かが終わる気がする。

「じゃぁ、とりあえず自己紹介からお願いしようかな」
「……ハイ。北女二年の名無しの名無しデス」
「北女って北川女子?あそこの女子校、可愛い子多いってホントッスか?」
「え、それ北女じゃなくて栄女子だろぃ?」
「あれ?北女って聞いたッスよ?」
「ぜってー栄女子だって」
「どこの女子が可愛いなどとたるんどるわ!」

突然勃発した説教に面食らっていると幸村くんと目があった。ニコリと笑われたので引きつった笑みを返す。

「俺に何か用だったみたいだけど」
「あ、えっと、写真をですね…」
「写真?」

首をかしげる幸村くんに事の経緯を説明。
立海には自分たちの部活(ちなみにバドミントン部)の練習試合の申し込みで来たこと。ついでに部員たちからテニス部の写真を撮ってこいとせがまれたので盗撮しようとしていたこと。全員の盗撮は無理だと思ったのでとりあえず一番人気だった幸村くんの写真だけでも撮ろうとしていたところ本人に出くわしたということ。

「ふうん。そうだったんだ」
「ハイ。ご迷惑おかけして申し訳ありません」

深々と頭を下げて謝罪する。練習を中断させるほど大事になるとは思ってなかった。パパっと写真を撮って帰るつもりだったのに。

「ところで」
「?」
「仁王がえらく懐いてるみたいだけど…君、仁王の彼女?」
「………」

ビシバシと雅治からの視線を感じる。この視線の意図はなんだろう。余計なこと言うなとかそんなんだろうな。でも何て言えばいいんだ。とりあえず彼女じゃないとだけ否定しておくか…。

「か、彼女じゃないです…」
「へぇ。じゃぁ、友達?」
「とも、だち……というよりはご近所さ、ぐえ!」

首根っこを掴まれて強制的に立たされる。ポカンとするイエロージャージ組をよそに雅治は幸村くんを一瞥したあと私を引っ張って部室から出て行った。
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