庭球のお話

□「………顔上げて」
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大晦日にブン太から告白されたものの、恋人同士のようなピンク色の雰囲気になることもなく普段通り迎えたお正月。ひょっとしてアレは私の勘違いだったのだろうか。
そんなことを思いながら深夜番組をぼんやり眺めていたら、ブン太から電話がかかってきた。

「もしもーし」
『よっ!起きてた?』
「うん。ボンヤリしてた」
『お前ちょっと外出る気ある?』
「え、無い。無理」
『なんで』
「寒いじゃん。しかもスッピンだしスウェットだよ?終わってるから私の格好」
『化粧はイイから適当にあったかい格好して外出て来いって』
「はぁぁ?なんでよ、めんどい」
『いいから!花火しようぜ』
「花火ぃ?」
『おう。さっき部屋片付けてたら出てきた』
「夏までおいときなよ」
『雪の中で花火なんてめったにねェんだから来いって』
「え!今雪降ってんの?」
『うん』

慌ててカーテンを開けたら、真っ白に染まった屋根が見えて少しテンションが上がる。そのまま目線を下にずらすと、雪が降る中こっちを見上げるブン太がいた。

「あんた外にいんの!?」
『おう。さっみぃ』
「当たり前じゃん!バカじゃないの」
『うっせ。もういいから早く出てこいよ。凍死させる気か』
「えぇぇぇ…」

めんどくさいなと思いつつ、ワクワクしている自分もいる。だって雪降ってるし。積もるのなんて久しぶりだし。雪だるま作れるかもしんないし。
手早くズボンだけ履き替えてスウェットの上からダウンを着込んでポケットに小銭入れをつっこんで準備完了。家族を起こさないようにソッと外に出た。

「おっせ」
「これでも急いだんですけど」
「うわ、マジでスッピンじゃん。眉なし」
「うっさいバカ。で、どこでやる?」
「公園でいいんじゃね?」
「ん」

ゆっくり並んで歩く。雪を踏んだ時にギュッギュッと鳴る音が楽しくてニヤニヤしていたら、隣でブン太もニヤニヤしながら雪を踏んでいた。

「なにニヤニヤして」
「これ面白いんだよ」
「わかるけど」
「だろぃ?」
「ギュッて鳴るのがいいよね」
「うん。雪!って感じ」
「ね」

また無言になってゆっくり歩く。そういえば小さい時も雪が降るたびにブン太とはしゃいだっけ。手を真っ赤にしながら雪だるま作ったなぁ。

「公園とうちゃーく」
「うわぁー!真っ白!」
「おい、走んなよ転ぶぞ」

注意されたけど無視した。真っ白な地面に自分の足跡がポツポツつくのが楽しい。デタラメに歩いたら不思議な模様が出来て少し満足した。

「なにその模様」
「ミステリーサークル的な」
「どうせ朝には消えてんのに」
「いいの。…あ、ていうか花火は?」

ブン太を見ても手ぶらで、花火を持っているようには見えない。まさか忘れた?

「もしや忘れた?」
「ちゃんと持っ……やべ、落とした!?」
「はぁぁ?」

パタパタと胸ポケットやらズボンのポケットやらを叩くが出てこないようだ。やべェとかなんとか言うブン太に丸めた雪を投げたら背中に命中。

「うぉ!つめてェ!」
「あははははは!」
「やめろバカ!」
「忘れる方がバカだし!ばーかばーか!」

ぎゃぁぎゃぁ騒いで雪玉をぶつけ合う。凄く楽しい。住宅地から少し離れたところにある公園だから騒いでも近所迷惑にならないし。息も切れ切れになった辺りで私が降参のポーズをして雪合戦終了。

「あー、疲れた。ちょっと休憩しよーぜ」
「そだね…。うわ、手真っ赤」
「…これやる」

投げてよこされたホッカイロを有り難く頂戴する。でもブン太の手も真っ赤だったから、ちょっと待っててと声をかけて公園の外にある自販機に向かう。ホットコーヒーを2つ買って戻るとブン太はまだ服をパタパタ叩いていた。

「ほい、ホットコーヒー。…何?まだ探してるの?」
「ぜってェ持ってきたんだって」
「ほーん」
「信じてねェだろぃ」
「どうせ玄関とかに置き忘れたんじゃないの」
「いや、ポケットに入れた記憶が。くそ!邪魔くせェ!」

大きな声を出したかと思えばダウンを脱ぎ始めた。このクソ寒いのにおかしくなったのか?と思っていたらダウンからポロリと何かが落ちた。

「ブン太、なんか落ちたよ」
「え。…あっ、触んな!」
「……何これ?」

紺色の小さな箱。触るなと言われれば触りたくなるもので拾い上げて蓋を開けてみたら、中に一粒ダイヤの指輪が入っていた。
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