庭球のお話

□腐女子の話2
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朝、学校へ向かう途中で名無しのを見かけたので「おはようさん」の声をかけながら隣に並ぶ。すると、目を輝かせて「おはようございます!」と返してきたので嫌な予感がして少し距離を取ろうとしたが遅かった。

「聞いて下さい!昨日買った本がですね、大当たりだったんです!」
「……へぇ」
「もおおおお!さいっこうに萌えて!攻めと受けの掛け合いに素晴らしく萌えて!」
「ほー」
「テンション上がりすぎて昨日なかなか寝付けませんでした!良かったら仁王くんも読みません?」
「いらん。ちゅーかホモ話やめろ」
「えー、面白いのに…」

読めばハマるのになぁ、という名無しのの呟きを無視しながら歩く。
俺に柳生との腐った話を暴露して以来、第三者がいないければホモ話をおおっぴらにしてくるようになった。本人いわく「仁王くんにしかこんな話出来ないんで、すっごく楽しいです」だとか。好きなヤツに輝かしい笑顔で、仁王くんにしか、となかなかキュンとくることを言われたのにも関わらず内容が内容だけに全然嬉しくない。相変わらずいつも一緒にいるし(奴隷生活だから)、学校内ではカップルと認定されているのに肝心のコイツは……。

「なぁ」
「はい?」
「俺のことどう思っとる?」
「ナイスカップルだと思ってますよ、柳生くんと」

ニヘ、と可愛く笑いながら、俺のことを男して認識していないどころか腐った対象として見ているという悲しい答えが返ってきて頭が痛くなった。

「あ!とうとう柳生くんに告白する感じですか!」
「なんでそうなる」
「え、俺と柳生ってどう見えてるのかな?的な感じで聞いたんじゃ…」
「違う!柳生のことなんか聞かんかったじゃろうが!」
「照れ隠しかと」
「アホか!」

もうイヤ。こいつ頭腐りすぎじゃろ。あぁ、なんで俺こんなヤツ好きなん?と考えながら横を見ると、にへらと笑いかけられて不覚にもドキッとした。いつぞや幸村に「惚れたら負けだよ」と言われたことを思い出していたら、名無しのが「あ」と声をあげた。

「仁王くんは好きな人いないんですか?」
「……なん、急に」
「いや、心配になって」
「?」
「私と一緒にいること多いじゃないですか。変な勘違いされてないかなぁって」
「………」
「もし勘違いされてるなら言って下さいね。なるべく離れますから」
「…………」
「あ、別に下僕の仕事サボるために言ってるんじゃないですからね。仕事はちゃんとやるんでどうか私のアレは内緒に、イタタタ!痛い!なんですか急に!」

腹が立ったので頭を鷲掴みにするとワーワー騒ぐが離してやる気にならない。
もうコイツほんとなに?好きな人いないんですかって? お 前 じ ゃ ボ ケ !お前以外のヤツは全員気付いとるのになんでわからんの?赤也ですら「仁王先輩はほんとマネージャー好きッスね」とか言うとったぞ。コイツどんだけ鈍感なんじゃ。ああ、イライラする。

「安心しんしゃい。好きなヤツには勘違いされとらんから」
「わぁソレは良かったです。スミマセン離して下さい痛いです」
「離さん」
「ヒドい!」
「ヒドいのはお前さんの頭ナリ」
「自覚してますけど、改めて言わないでもらえます?」

コイツが自覚しとるっちゅうのは自分が腐ってるという事のみで、鈍感さには微塵も気付いとらん。分かりやすくアプローチしてるつもりなんに、なんで気付かんの?まぁ、脅して無理矢理一緒にいる関係から、ホモ話が出来る唯一の相手に昇格したけど……ていうか、昇格か?コレ。心は開いてもらっとるとは思うけど、男として見られとらんよな。あぁ、そう考えたらまたイライラしてきた。

「ちょちょちょ仁王くん!手に力が入りすぎて頭が割れそう!」
「もういっそ割れてしまえ。んで、腐っとらん脳みそ入れてもらえ」

ヒドい、と叫ぶ名無しの。ヒドいのはお前の鈍感さじゃろうが。確かに最初は俺も下僕とかいうて良くなかったかもせんけど、こんなに毎日一緒におるんに全く意識されんのも辛いもんがある。いつになったらコイツは気付くんじゃろう。もしかして、実はもう気付いとるけど知らんフリでもしとるのか。

「もし」
「?」
「俺がお前さんのこと好きじゃって言ったらどうする?」
「有り得ないですよ」
「………は?」

有り得ない?有り得ないって………ハァ?なに?
苛立ちやら混乱やらで脳みそが上手く回らない。頭から手を離して睨むようにして名無しのを見る。
なんで俺がお前を好きなんがあり得んの?なんでソレをお前が決める?

「………なんで?」
「私が腐女子だって知ってるのに好きになるわけないじゃないですか」
「わからんじゃろ」
「わかりますよー。普通こんな趣味の女、誰も相手にしませんって。だから仁王くんが私を好きだなんて有り得」

ちゅっ

ない、と言う前に口を塞いでやった。
ムカつくムカつくムカつく!なにコイツ。俺がお前を好きなんて有り得んとか、そんなん勝手に決めるなよ。
たっぷり10秒キスをしてから顔を離す。

「腐女子でも!俺のこと腐った目で見とっても!好きになったもんは仕方ないじゃろうが!」
「!?」
「あと!さっきからお前ムカつく!こんなけ一緒におるんじゃからいい加減気付け!ボケ!」
「えっ、あ、ス、スミマセン…?」
「で?」
「え」
「返事は!」
「えっ。いや、その、」
「アァ?」
「じ、時間…下さい…」

そう言う名無しのの顔が徐々に真っ赤になっていったので、初めて男として見させてやったとスッキリした。



エンド!

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