庭球のお話

□「ビックリした…」
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「ちょっと手、離そうか」
「………ゃ」
「…………」

いや、じゃねぇんだよ!お前のせいで私の休みは潰れたんだっての!大人しく寝てろよバーカ!と言いたいけれど、グッと我慢する。
雅治が熱を出した。ここ最近、雅治の甘えたモードが炸裂していたから、私がドライヤーで雅治の髪の毛を乾かすのが日課になっていたのだが、昨日は家族で出かけていて家に居なかった。その、たった1日乾かさなかっただけで熱が出たらしい。どんだけ体弱いの。

「なんで髪の毛乾かさなかったのバカじゃない?」
「…、……も、」
「うん。全然聞こえない」

雅治の部屋。ベットの上で布団をぐるぐる巻きにされて横たわる雅治に片手を掴まれる私。ちなみにこの家には私と雅治の二人しかいない。うちのお母さんが「ちょっと雅治くんの看病よろしくね!夜には帰るから」とおばさんと連れ立って出掛けて行ったからだ。息子と娘を放置する親ってどうなの。いや、別に高校生だから放置されても問題は無いんだけど、息子高熱出てんですけど。病人を放置はいかがなものか。おばさんにそれとなく言ったのだが「名無しちゃんがいてくれるなら安心だわ」と返されて、何も言えなかった。

「冷えピタと氷枕持ってくるだけだから、手離して」
「………」
「すぐ戻ってくるし」
「…………く、…きて」

早く戻ってきて。微かに聞き取れた声に頷き返して部屋を出た。声も出ないほどしんどいはずなのに、ちょっと離れるだけであんなに愚図られるとは…。思わずため息が出る。
氷枕を準備して、濡れタオルと冷えピタも持って、ついでに冷蔵庫にあったポカリも拝借して部屋に戻る。

「はい、ポカリ。冷たいよ」
「…ん」

ぼやっと起き上がって大人しくポカリを飲んでいる間に枕を替える。冷えピタを張るついでに濡れタオルで顔を拭いてやると、気持ちよさそうな顔をしたので少し安心した。

「あ、…がと」
「ん。ちょっと寝てな」
「…ここ、おって」
「はいはい」

さっきより声が出ている。ポカリを飲んで喉が楽になったのだろう。布団から手を出して私の手を握ろうとしてくるので、手を抑えて頭を撫でてやると満足そうに目を閉じた。しばらくそうしていたら寝息が聞こえてきたのでソッと部屋を出る。
起きたら食べれるように今のうちにお粥作っとこう。起きてる時に作ろうとしたら絶対また「ここにおって」とか言って愚図るから。あ、ゼリーとか果物とかもあった方がいいかなぁ……ていうか、薬は?病院行ったのかな?
色々考えながら階段を降りてキッチンに向かうと、テーブルの上に処方薬の袋が置いてあった。一応病院には行ったようだ。冷蔵庫の中を覗くとお肉や野菜はあるものの、果物やゼリーなんかは見当たらなかったので、財布を掴んで家を出た。
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