短編

□俺の支えは君だ。
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誰と居たって貴方は楽しく過ごせるじゃない
私じゃなくたって貴方は楽しく過ごしてる

「そんな事ない
お前と居るのが一番楽しいんだよ、俺は」

私が不安になると貴方は私の頭を撫でながらそう言ってくれる
私はね別に疑ってる訳じゃないの
ただ純粋に貴方の隣に居るのが私で良いのかな、って思ってしまう

「朝日さん、今日は会議で遅くなるって言ってたっけなー…」

1人ソファーに座り携帯片手に千智は呟いた

テレビは電源が入っていないし音楽を聴いている訳でもないから部屋の中はシーンとしている

1人で過ごす時間ってこんなに退屈だったかな、なんて思う千智
朝日さんとは私が良く行くバーで知り合った
初めは目が合ったりしたら挨拶を交わす程度だったのが知らない内に段々と仲良くなって、いつしか惹かれてた
朝日さんにデートに誘われた時は胸が破裂するんじゃないかってくらい凄く嬉しかったのを今でも鮮明に覚えている


「私って結局、朝日さんにとことんのめり込んでるんだなー…」

携帯をテーブルに置き千智はソファーに横になった
横になれば自然と瞼が重くなるのは当たり前
千智もあれよあれよと言う間に夢の中



「じゃあ、今回の件はわが社に任せて頂けると言う事で皆さん宜しいでしょうか?」

そんな朝日のキリっとした声に会議室が少しだけピリっとした
今回の企画は朝日が勤務している会社が提案したもので朝日は企画の責任者に抜擢されたのだ

「あぁ、構わんよ」

「私共も、異論ありません」

言葉はそう言っているが少し納得していない顔を皆がしている

「では、これで会議は終了と言う事で
皆さん本日はお疲れ様でした」

が、朝日はそんな事など少しも気にしていない
会議は済んだのだから早く家に帰りたいと言う気持ちが先走っている
本来ならこの会議は昼間に行うはずだった
が、仕事と言うのは急な変更が多々ある
この会議も出席する他社の責任者が夜じゃなければ都合がつかないと急に会議を夜にしてくれと言ってきたのだ

朝日はちらっと腕にしている時計を見る
時刻は23時30分
家に着く頃には日付が変わっているだろう
朝日は身支度をしながらため息を吐いた

「朝日さんお疲れ様です!」

「あぁ、お疲れ
今日は悪かったな、こんな時間まで引っ張ってしまって」

「いえ、朝日さんと一緒に仕事出来るなら何時間だってお供しますよっ」

にこにこ笑ってそんな事を言っているこの男は去年入ってきた石崎はじめ
入社当時から何故だか朝日に懐いている

「じゃあ明日から毎日、残業して貰うぞ?」

「えっ、いや…それは」

そんな朝日の言葉に石崎は慌て始めた
さっきの勢いはとっくに消え去っていた

「はは、冗談だよ冗談」

そんな石崎の姿に朝日は笑いながらそう言った

「本気にしそうでしたよ俺っ」

「後輩を残業漬けにする訳ないだろ、馬鹿
じゃ、お先ー」

後ろから石崎の「お疲れ様でした!」と元気の良い声がした


会社を出ると朝日は車に乗り込み千智が待っている自宅へ向かった
この所、仕事が忙しくて千智とゆっくりする時間なんて無かった
また我慢をさせてしまったな、と運転しながら朝日は思った

俺も千智も行き付けのバーで初めて俺が千智を見掛けた時一目惚れをした
仲良くなって暫くしてデートに誘った時あんなに喜ばれるなんて思わなかった
OKを貰えた自体、驚いた
俺はてっきり断られると思っていたから

三回目のデートの帰り道に千智に告白をした
千智は涙目になりながら何度も頷いていた
そんな千智を自然と俺は抱き締めていた


そんな昔の事を思い出していたら自宅の駐車場へ着いた
朝日は車を定位置に停め車から降りてマンションの出入口の自動ドアからマンション内へ入りエレベーターに乗り二階のボタンを押した
直ぐにチン、と言う音がして扉が開いた
エレベーターを後にして、朝日は部屋へ向かった


ガチャガチャっとドアノブを回すとすんなり扉が開いた


「たく…無用心だな」

そんな事を呟きながら朝日は部屋へ上がった
部屋へ上がるとリビングへ向かった

「ちさ…」

名前を呼ぼうとしたがソファーで静かに寝息を立てている千智を見付け朝日は呼ぶのを止めた
寝ている千智の側へ行き静かにソファーの空いてる部分へ腰を下ろした

「悪かったなー…遅くなって」

千智の頭を軽く撫でながらぽつりと呟いた

「…ん、朝日さん…?」

「ただいま、千智」

「おかえりなさい」

千智は目をこすりながら朝日をじっと見つめた

「どうかしたか?」

朝日は優しい眼差しで千智を見つめ返す

「朝日さんだなーって思って」

ふふ、と千智は少しはにかんだ

「そういや玄関の鍵かかって無かったぞ」

「えっ、かけたと思ったのに」

千智はハっとした様子で起き上がった

「ちゃんと確認しろって言ったろ?」

起き上がった千智をクイっと朝日は自分の腕の中に引き寄せた

「泥棒入ったりしなくて良かったー…」

千智は朝日の背中に手を回す

「気を付けろよ」

朝日がぎゅっと抱き締めると千智は頷いた後、ぎゅっと抱き締め返した
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