短編

□好きだ、と俺は云う
1ページ/3ページ



「和也、好きだ。」

俺、神沢 和也(かみさわ かずや)に告白して来たのは幼馴染みの男、黒川 辰巳(くろかわ たつみ)

「…は?」

俺は自分の耳がおかしくなったのかと思った
と言うか、目の前に居るこいつの頭もおかしくなったんじゃないかと思った

「聞こえてなかった?俺は好きだ」

ああ、どうやら俺の耳は正常みたいだ
正常じゃねぇのは辰巳の方らしい

「待てよ、何の冗談だよ。」

俺はそう言ってテーブルに置いてる冷めかけのコーヒーを一口飲む

辰巳とは長い付き合いだ
中学、高校と一緒で良くお互いの家を行き来したりしてた
大学は別々だが相変わらずお互いの家を行き来している
もっとも、今は当時とは違い俺も辰巳も実家を離れ1人暮らしだ
いや今はそんな事はどうでも良い

「俺が冗談で告白すると思ってるのか?」

辰巳は少し不機嫌そうな表示で和也を見る
和也は辰巳を見る事が出来ずに俯いた
俯いても辰巳の視線を感じる

「お前の返事を俺はまだ聞いてない。」

辰巳の言葉に和也は体を少しだけビクついた

「へ、返事?返事する必要あんのかよ。
分かりきってるじゃねぇか。」

そう言い俺は辰巳の顔を見た
辰巳は相変わらず真っ直ぐ俺を見ていた

「俺が嫌いか?」

「っだから…嫌いとかじゃねぇよ。
それ以前の話だろ。」

「それ以前?」

和也の言葉に辰巳は軽く首を傾げた

「俺もお前も男じゃねぇかよ…!」

(何なんだ、首を傾げる要素がどこにあったんだよ。
俺の目の前に居るこいつは阿呆か?阿呆なのか?
男同士だって事に気付いてねぇのかよ。)

「それが何か都合が悪いのか?」

辰巳は表情を変えずにさらりと言った

「…は?」

和也は口をポカンと開けて、ただただ辰巳を見た

「同性は好きになったらいけないのか?
俺はお前自身に惹かれたんだ。」

「っ…や、やめろ!」

和也は声を張り上げた
和也の頬はほんのり赤くなっている

「お前は俺の事どう思ってるんだ?」

辰巳は立ち上がり和也の方へ近付いた

「近付くんじゃねぇよ、ばか!」

和也は辰巳から逃げるように後退る

「逃げるのは良くないぞ。さすがに俺も傷付く。」

辰巳は苦笑しながら和也に手を伸ばす

「触んなよっ。」

和也は辰巳の手をパシッとはじいた
辰巳は、はじかれた自分の手を寂しそうに見つめた

「あ…いや、その悪い。」

和也はバツが悪そうに辰巳に謝る

「いや、良い。
お前の気持ちは分かった。」

辰巳はスッと立ち上がりソファーに置いていた自分の上着を手に取った

「…。」

和也は何を話して良いか分からず、ただ辰巳を見つめるだけ

辰巳は上着を羽織ると和也の顔も見ずに「今日の事は忘れろ。悪かったな。」と言い玄関へ向かった

「あ、おい!辰巳…っ。」

和也が立ち上がったと同時にバタンッとドアが閉まる音が聞こえた
和也は辰巳が出て行ったドアを見つめ立ち尽くした

(くそ!手をはじいたくらいで何であんな顔すんだよ…!)

和也は顔をしかめてドンッと壁にもたれかかった

「忘れられる訳ねぇだろ、ばかやろう…。」

和也の声は静かな部屋に消えていった
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ