BASARA 長編

□あの日の約束(前)
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怒りと恥ずかしさと屈辱で邸を飛び出した。

思えばこれが初めて城下町にでた事だった。

「ハァ・…ハァ…!」

「政宗様〜!」

後ろから追手が迫ってくる。

「ハァ・…ハァ…どうしよう…」

弱気な政宗は涙目になって逃げ回る。

「こっち!」

いきなり手を引っ張られて何処かに連れて行かれる。

「のわっ!?」

必死に振りほどこうにもなかなかほどけずそのまま何処かへ引っ張られた。

「あのッ!何?誰!?」

「シッ!静かに!」

「んー…」

「政宗様ー!」

自分の頭上を越えが通り過ぎる。

政宗の口は女の手によって塞がれていた。

「んー!んー!!」

「ん?あ、ゴメンゴメン!」

「ぷはー!・・・死ぬかと思った・・・。あの、君、誰?」

「あのさー。人に聞くときはまず先に自分から名乗りなよ」

「僕は『伊達 政宗』」

「ふーん…私は、多分無いかな」

「え!ないの?だったら最初にそう言ってくれればいいのに・・・」

「へへっ…ゴメン。ねぇ、『伊達 政宗』って事はあのお邸の人でしょ?」

「うん・・・」

「貴方、伊達家を継ぐんでしょ?」

「いや、継がないよ。ていうか、継げないんだ」

「何で?」

「だからッ!」

ついついカッとなる政宗。

「あ…ゴメン」     「ううん」

「…右目が病気で見えなくなってさ。お母様には好まれてないし、弟の方がいいんだ。

   僕は、迷惑者だから」

「・・・」

「君も気持悪いと 「そんだけ?」

「え?」

「貴方が継げない理由ってそんだけなの?」

「どういう事?」

「確かに包帯の上からでもわかるくらいだけどだから何?そんだけ?政宗が恥じる事なんてないじゃん」

「・・・・」

「政宗はいい人だよ。みんな、政宗の事知らないだけだよ」

少女は左腕で頭を撫でた。

「うぅ…!」

「あれ、泣くの?男の子でしょ?強くなくちゃ。」

「…うん。そうだね」

「政宗様ー!政宗様ー!」

「ほら、丁度いいタイミングで迎えが来たよ」

「あ、この声は片倉だ。」



――――――――トン



「またね。寂しくなったらまた城下に来てよ」

「うん。ありがとう」

「ま…政宗様…」

「片倉…」

「こんなに暗くなるまで何をなさっていたのですか?」

「ゴメン…」

「さ。帰りましょう?」

政宗に向けられた優しい笑顔

「…うん。」

振り返っても、少女の姿はもうなかった。





   ***

「政宗様、本日は誠に申し訳ありませんでした。」

「ん?いや、いいんだ。僕こそ、気にし過ぎてた。」

「政宗様…」

「僕は、気にしないよ」

「・・・」
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