銀魂 短編

□透ける、好ける
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「舞月」
「はい。」

後ろから私を呼んだのは『鬼の副長 土方十四郎』。
正直この人は苦手だ。きっとこの人は私の事を嫌ってるから。
苦手な理由はこれだけじゃない。


私は、この人が好きだから。

だからその相手に嫌われてるという事実が辛くて、この人が苦手なんだ。

「最近働き詰めじゃねぇか。少し休め」
「いえ。…大丈夫です」
急に声をかけられた驚きを出さぬよう落ち着いた声でこたえる。
「それに!土方副長が忙しそうに働いてるのに、自分だけ呑気に休めませんよ」
「いや、俺は仮にも副長だしな…」
視線を外に向け、ガシガシと頭をかく姿でさえ様に愛しく思うのだから、自分の心は重症だ。
「とにかく、私なら大丈夫ですから!」
自嘲気味な考えに頭を振ってこれ以上の会話は耐えきれないと逃げだした。
静かな廊下では、自分の心音が聞こえてしまう気がしたのだ。




   ***

「おぉい舞月」
「ん?」
このやる気ゼロな話し方は総悟だな。
「お前、まだ土方さん苦手だろィ」
真剣さを装っているが僅かに上がる口角に彼が楽しんでいるという様子が伺える。くそぅ。
「え、まぁ…」
「あんなのにビビってたら攘夷志士なんて捕まえられねぇぜ?」
「別に攘夷志士は怖くないよ」 
「変な奴」
私の悪口と隠しもしない欠伸とを残して私の後方にある出口へと向かっていくが、これは事務しごとをサボるためだろうな。
「…と、お前、これからその書類片付けるのか?」
「うん。何で?」
出口へ向いていた総悟の視線はふと自分の抱える書類へと向いた。
「いや…働き過ぎじゃね?」
「そう?ほら、貴方たちみたいに力仕事は出来ないしさ。これぐらい。」
「ふーん…」
そういうなら手伝ってと言えば、私の存在をまるで無視してまた一つ欠伸を残して今度こそ外へ出ていった。
お前がサボってること、局長にチクってやるぞー!

両手を書類にとられつつ、無言でサボりゆく背中を睨み付け、部屋に向かうしかない自分である。




   ***

「失礼します」
行灯の活躍する午後十二時。
書類に不備があった為、土方さんに質問し部屋へと向かったのはいいんだけど…

「寝、てる?」

机に突っ伏したまま眠ってる。びっくりした。あまりに寝息が聞こえないからてっきり亡くなっているのかと…
机の上にはまだたくさんの書類があるのだが、まさか起こしてしまう勇気はないし、休める時には休んでほしい。
「そんな所で寝てると風邪ひきますよ」
夜の静けさを壊さぬよう声をかけ、部屋の隅に置かれた布団をそっとかけた。




   ***

「おはよう!舞月ちゃん!」
「あ…おはようございますー」
忌々しく眩しい朝日を背にして、近藤さんと土方さんが声をかける。いやぁ近藤さんは朝から元気だなぁ…
「うん!…ってアレ?舞月ちゃん、フォークとスプーン間違えてない?」
「あ、本当だ。どうりでスープが飲みにくいと思った…」
「ちょっ…大丈夫か!?」
「はい。平気です。」
何だかんだ言って昨日は書類にかまけて眠れなかったのだ。睡眠不足。人間寝ないと頭がうまく起動しないらしい。
「おい」
「はい」
突然かけられた土方さんの低い声に私の頭は一気に目覚めた。
「お前、飯食い終わったら外の風当たって来い」
「え?別に大丈夫です」
「そうは見えねぇよ…巡回だと思って、気軽に散歩して来い」
「はぁ…」
彼なりの気遣いなのだろう。忙しく動き回っているのはお互い様なのに、他人の体を気遣うなんておそらく彼は優しい人だ。
いや、土方さんが優しいのは知ってる。
私はそこは好きになったのだから。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
返事の代わりとでもいうように煙草をくわえたが、食堂は喫煙禁止だと即座に取り上げられていた。
かっこつかないところは見ない振りをするのが優しさ。
食事を終え、食器を片した私は心のなかでお礼を行って外へ出た。




***

あまり乗り気ではなかったくせに、久々の休暇は思ったよりも心を弾ませ、いつかいつかと溜め込んだ買い物リストを手にした時は小さく鼻唄まで口ずさんでいた。
「さて…」
お土産にとお饅頭でも買ってこようと部屋を出たとき、丁度前から歩いてくる土方さんが見えた。
「今からか」
「はい、お気遣いいただきありがとうございます!」
「あぁ、気を付けてけよ」


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この時の私は知らない……
何も知らないのだ。



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「待て―!」

自分でも呆れるほどくさいセリフを吐いて追うのは過激派攘夷志士。
休日を謳歌する町の人々を押しやり、けして見失うものかと地面を蹴り進む。
人相なら何回も手配書見て覚えてた。あれは間違いない。山崎監察官が目星をつけていた攘夷志士。
今捕まえないと、きっと次はない…ッ!


――――――――――――キィィィッ!!!



―――――――――――――――――――――――――――――――



―――――…激しいブレーキ音、周囲からの悲鳴、目の前に現れた黒く大きな影。危ないと思った時にはとうに遅く、自分の体が宙に舞うのを微かに感じていた。

痛い…体中が軋む…

周りの騒ぎ声が遠くに聞こえてきた。
もう動けない。
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