短編

□内に秘めて
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『菊さん!はやくはやく!』
「そんなに急がなくてもまだ時間はありますよ」



玄関から急かす彼女は近所に住む学生さんで
小さな頃から私のところによく遊びに来てくれる元気で明るい子です。
小学校の頃は近所でお祭りがあればすっかりお爺ちゃん気分で孫のような彼女を連れてお祭りを楽しんだものです。



「おや、今年は藍色の浴衣ですか」
『似合ってますか?』
「とっても似合ってますよ」



そう言うと彼女はふわりと微笑んで
落ち着いた色の浴衣とそれに合うように結われた髪型のせいなのかとても大人びて見えた。
中学に進学すると部活に勤しんだ彼女は疲れているにも関わらず、毎日のように顔を出してくれて、学校であったことなど色んな話を聞かせてくれました。
高校受験のときには合否を親より先に報告してくれて、あの時は一緒に喜んだものです。



『そうだ、今年も写真撮りましょ』
「そうですね」



毎年こうして同じ場所で写真を撮る。
ここで撮るのはこれで8枚目でしょうか、アルバムに思い出が増えるのが楽しみですね。
いつの間にか縮まった身長差もまた思い出です。
以前、高校生になっても尚、こうして私と一緒にいてくれる彼女に楽しいですか?と問ったことがあります。
すると彼女は幼い頃と同じように勿論です。と言って綺麗に笑ったのは最近のこと。
高校での話を聞く中で、何回か告白されたとか色恋の話も出るほど綺麗になった彼女だけど話の最後はいつもお断りしたんですけどねで。
あるとき、どうしてですか?と問いかけると菊さんといる方が何倍も楽しいし落ち着くんです。とそれはそれは嬉しい限りでした。



『菊さん、やっぱり日本の花火は綺麗だね!』



アナウンスの後、大きな音とともに次々と夏の夜空を彩る大輪。



「・・・***さんの方がずっと綺麗ですよ」
『え?ごめん、聞こえない!』



キラキラと目を輝かせて花火を見る彼女に、つい言葉を零してしまう。
幸いにも花火の音でかき消えたみたいで



「ふふ、それでいいのです」
『?』



願わくば来年再来年その先も、私のアルバムにあなたの笑顔が増え続けますように。

 


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