深海に落ちたナイフ
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今キドとマリーは買出しに行っている。
カノは何かしら用事があるそうでアジトには居ない。
セトは…いつもの様にバイトに行っている。
つまり残っているのは私だけである。
誰もいないアジトはとても寂しいものだ。
「んん…」
なんて考えていると眠気が私を襲う。
ここはリビング同然の場所。
皆が帰ってきたらやばいし部屋に戻ろう、そう考えてはいたものの。
眠気に勝つ事はできず、その場で寝てしまった。
♂♀
がさごそと近くで物音がする、それのおかげでぼんやりと目が覚めた。
まだまだ眠いのだけど物音がする以上誰かが帰ってきたという事なのだから起きなければ。
そう思いうっすらと目を開ける。
そこにはセトが居て、寂しそうな瞳を私に向けていた。
うっすらと目を開けているだけなのに表情が確認できる。
という事は、セトと私の距離はとても近いという事になる。
「…ナナシ」
やめて、そんな甘い声で私の名前を呼ばないで。
「何でなんすかね、」
セトはすっと私の頬に手を寄せて優しく、とても優しく撫でた。
やだよ、そんな風に扱わないで。
貴方には、お姫様が、マリーが、いるのに。
「こんなに近いはずなのに、遠いんすよ」
「…セ、ト」
「お、起きてたんすか?!ごめ、俺…」
それ以上は何も言わなかった。
ただただ静かに私を見つめるだけで。
こんな時まで律儀に約束守らなくて良いのに。
心の底からそう思った。
だって、話したくないなんてあの時の言葉。
ずっと後悔していたんだから。
シンとした空気の中、私はセトの手を緩く握り。
ただ一言告げる。
「セト、あの約束なしにしよう…?」
紡がれた言葉は
( 私が望んだ事なの )