ファイ・ブレイン

□穏やかな笑顔
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「……なあ、お前らの夢ってなんだ?」

「え、夢?」

「どうしたの?急に」

それは3人で丘に寝そべって話していた時の事だった。
Xが急に僕らの夢について聞いてきた。

「いや、ちょっと気になっただけだ、意味はない」

目を細め遠くを見るような眼をする。
まるで、その表情は未来を見ているように見えた。

「そうだな、んー……じゃあ、パズルと結婚する!」

カイトがガバッと起き上がり木の根元に置いてあるパズルを指さした。

Xが持ってきた様々な種類のパズル。
これらと結婚するなら一夫多妻制のある国じゃないとね、と一人心の中で思う。

だがカイトはそんなことも考えずただただ純粋に笑っている。

「ハハッ……結婚、なぁ」

Xはにやりと笑う。
そしてその笑顔のまま僕の方を向く。

「ルークは何が夢なんだ?」

「……僕の夢?」

「ああ、ルークの夢だ」

僕の夢。あまり考えたこともなかった。
あえていうなら今が続いてほしい、僕が大人になっても、ずっと。

この幸せな時間が永遠に続いてほしい。

だがそうすぐに言うのも面白くない。
少しXで遊んでみることにした。

「じゃあ、Xは何が夢なの?」

そう聞くと少しびっくりしたように一瞬目を見開いた。
やはりこんなことを返されるとは思ってもいなかったのだろう。

そしてXは少し考えて僕にこう言った。

「俺の夢はお前らがずっと一緒にいてくれることだな」

優しげに微笑んだXの髪がふわりと風になびく。
それは一つの写真のようで子供ながらにとても美しく感じた。

僕らがずっと一緒にいる事。
簡単そうで難しいことなのかもしれないと思った。

だって他にも夢があるであろうXが一番に思うぐらいなのだから。

僕は、何があっても守らなくてはならない。
そんな義務感のようなものを感じた。

「……分かったよ、X。絶対僕が守ってあげる」

それを聞くとXは目を細めて長い瞬きをした。
そしてこちらを向いていつも通りの子供っぽい笑顔でこういった。

「さて。ルークは?」

「え、えっと……僕はずっとこの3人の時間が続いてほしい。
 ずっと、ずっと……大人になっても。叶う、よね、X?」

自分で言ってみて少し不安になり疑問形になる。

叶わないなんて選択肢はない。
叶うという選択肢しかない。そういう風には僕はなぜか思えなかった。

さっきXが口にした夢も。
僕にはそう思えた。

そしてゆっくりとXを見るとXは穏やかな笑顔でこう言った。

「……叶うさ、絶対に」

そしてまた空を見上げて儚げな表情をXは浮かべた。
白い雲が青い空に輝いているのも少し儚げに見えた気がした。






最後にジンが力を込めていった絶対。
その言葉が胸の奥でチクチクと針のように突き刺さる。

もう、時間は過ぎてしまった。
あの時のような穏やかな笑顔もなければあの純粋なカイトもいない。



絶対にあの日のささやかな願いは叶わない。

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