ファイ・ブレイン

□despair
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あの丘で三人が笑っている。

一人は大門カイト。僕のたった一人の友人だ。
かれの無邪気な笑い声が聞こえる。

もう一人は青年X・真方ジンだ。
青年であるというのに子供みたいに明るく笑っている。

二人ともソルヴァ―だった。

二人で問題を解いているときの顔はイキイキしていて、
3人の中でただ一人ギヴァ―だった僕は少し疎外感を抱いていた。

二人がまたパズルに取り掛かろうとしている。
僕はそれを急いで見に行く。

そして近くに行って僕は言った。

「次はどんなパズルをするの?」

そういうと二人は振り返るはずだった。
だが、二人は振り向かなかった。

どうしたの?と手を差し出すと
全てが、丘が、カイトが、ジンが砕け散って粉々になる。

全て、跡形もなく真っ黒の空間になって、僕はひとりそこに座っている。

孤独とむなしさだけが心に残っている。
ちゃんと笑い声は聞こえたのに笑顔は見えない。

あの二人の笑顔を見ていると幸せな気持ちになった。

ふと顔を上げるといつもの部屋。
カイトも過去のジンもいない。
そこには壊れたジンだけが残っている。

(ああ、そうだ……これが、現実(いま)だ)

過去はもうその空間にはなくて、
ただ、現実と虚無感だけがのこっている。

青年の顔は黒じゃない。
ちゃんと目も鼻も口もある。

なのに悲しくなる。

(ちゃんと目が覚めれば……。
 ちゃんと現実に戻れば大丈夫なんだ)

そう思ったらふわりと体が浮かんだ。



 




目が覚めるとジンの部屋だった。
どうやら一眠りしてしまっていたようだ。

「ジン」

ジンも寝てしまっていた。
あの頃と何も変わらない穏やかな姿で。

痩せこけた頬に不揃いな髭、
伸びた茶色の髪にくっきり浮き出た鎖骨。

何も変わらないそれを見ていると安心感に包まれた。

(あの時のまま、あの時と何も変わらない)

夢は夢だ。決して現実とは違う。
悲しい気持ちになどならない、ありえない。

何故夢で僕は絶望してしまっていたのだろう。
夢の内容が薄れていきただ、
ジンとカイトの夢を見たということだけが脳内に残る。

あの時間の夢。それだけで僕は幸せになった。
心がふわりと温かくなっていく。

絶望などない。この青年は僕の希望だ。

「じゃあまた来るね、ジン」

僕は立ち上がり部屋を出た。
出た時にはもう何も感じることはなかった。

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