しょうせつ。

□空が綺麗な日、(旅)
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それはそれは綺麗な夕焼けでした。
落ちかけの太陽を中心に、上下には自然のグラデーションが広がり、雲すらも黄昏れの空の中で淡いオレンジ色に染まっていました。
周りが家一つない草原だからでしょうか。
夕焼けはいつも以上に壮大に、そして美しく映りました。

「いやあ、壮大だねえ」
夕日を黒い車体に反射させながら、モトラドのエルメスはいつもと変わらない口調でそう言いました。
その隣にいたキノは、いつもの茶色いコートに夕日を吸い込ませながら、「そうだね」といつもと変わらない口調で答えました。
「ねえ、キノ」
「なんだい、エルメス」
「明日も、こんな夕焼けが見れるかな」
「僕たちが明日も変わらず旅をしてたらね」
「そうだね。なら、明日も死なないようにしないと」
「うん、そうだね」

夕焼けを眺める一人と一台の後ろには、数人の男の死体が転がっていました。
手には綺麗なままの斧や鉈を握っていて、皆揃って無念そうな顔で死んでいました。
盗賊か何かでしょうか。身なりは随分と質素でした。
そしてどの死体にも額や胸に一発ずつ、小さな穴が空いていました。

「綺麗だねえ」

エルメスが、夕日に向かって呟きました。
キノは夕焼けに目を向けたままやはり「そうだね」と短く同意しました。

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