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□異邦人
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人混みで溢れる下町の市場に、彼女は居た。
「…(見つけた)」
白い肌を黒のヴェールで覆った出で立ち。
「……」
“ジプシー”
どの組織にも属さない神出鬼没のくの一。
彼女は各国を流離い、一つの場所に留まる事を知らないと云う。
「……」
今、この機会を失えば次は無い。
オレは彼女に気付かれないギリギリの距離を保ちながら、その動向を窺う。
人混みをすり抜け、流れるように歩くその後ろ姿はどこか儚げで、気をつけていないとあっという間に見失ってしまいそうだ。
―
人通りが疎らになった通りの路地に入った彼女を追って、オレも路地に入り込むが、
「……」
彼女の姿が見当たらない。
周りを見回すオレの背後に突如感じた気配。
「!……」
「…私に、何か用でも?」
灰褐色の美しい瞳をした女がオレを見据えて言う。
「……」
彼女が醸し出す不思議な雰囲気に、不覚にも呑み込まれてしまったオレは、言葉を発する事が出来ずに、ただただその瞳を見ていた。
「……君は、誰?」
彼女のしなやかな指がオレの頬に触れる。
袖口から仄かに香るのは花の匂いだろうか…
―