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□曼珠沙華
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暑さの和らいだ風と、それに靡く曼珠沙華の花が秋の訪れを感じさせる。
オレはそんなのどかな田園風景が広がる畦道を歩いていた。
そして、その数m後ろを名無しさんが歩いている。

「……」

「……」

互いに会話はない。
あるのは、

「……おい」

「…なんだい?」

「オレの後ろで殺気を出すのはよせ」

移動し始めてから数時間、飽きもせずに背中に向けられる名無しさんの殺気。

「…殺気?愛嬌だよ」

気にしなさんな。

苦言を呈したオレに対し、手をヒラヒラさせて冗談のように言う名無しさん。

「……」

それが愛嬌なものか。
機会さえあればオレを葬ろうという魂胆が丸見えだ。

「…とにかく、だ。気が散るから止せ」

いいな。

念押しをすると、

「…神経質な男だね。そんなんじゃ頭が焼け野原になっちまうよ?」

「……」

悪びれた様子もなくそんな事を言う。

…なんて憎たらしい娘だ。

「……」

思わず肚の中で吐き捨てたオレに、

「憎たらしい小娘で悪うござんしたね」

当て付けのように言う名無しさん。

「……よく分かってるじゃないか」

そんな名無しさんに、オレは癪だがそう返す事しか出来ない。

「……」

再び肚の中で舌打ちをしていると、

「…クールでニヒルな奴かと思いきやァ、案外分かりやすい男じゃないか」

全部顔に書いてるよ。

「……」

その言葉にオレが視線を遣ると、名無しさんは“してやったり”と、意地の悪そうな笑みを浮かべた。

「……」

数ヶ月前、この娘と乱闘騒ぎを起こしたサソリの気持ちがよく分かる。
やはり、コイツはとんだ性悪だ。




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