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□吐露
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“天山”と呼ばれる霊峰が聳え立つ地。
その麓近くの一軒家にて。

「……」

真っ赤な血の海に横たわる女は、既にこと切れている事が認識できた。
だが、不思議とその死に顔に苦痛は見られない。
うっすらと微笑すら浮かべるその亡骸とは対照的に、鮮血が滴るクナイを片手に茫然と佇む蒼白い名無しさんの横顔。


「……これは…、お前の仕業か?名無しさん」

「……ああ」

オレの問い掛けに、こちらを向く事すらせずに答える名無しさんの声は酷く冷たく、非情なものに感じる。
それが無性に癪に障って、気付いた時にはその頬を叩いていた。

パンッ

「……」

だが、名無しさんの態度が変わることはない。

「……気分次第で生かしたり殺したり…、勝手だとは思わないのか?」

更に胸ぐらを掴んで詰め寄ったが、

「……何とでもお言いよ」

名無しさんは冷たい琥珀色の瞳を細めてオレを見据えると、

「……あたしは、神じゃないんだ」

自嘲するように言って、胸ぐらを掴んでいたオレの手を退けた。

「……」

「……」

事の発端は、名無しさんがある人物から託された一枚の文。
その人物とは、目の前の血の海に横たわる女の夫である。
山賊に襲われ、虫の息だったその男を、偶然通り掛かった名無しさんが発見、その死の間際に託された文を受け取った事から、事態は思わぬ結末を迎える事になったのである。

「……」

名無しさんの気持ちは、分からなくもなかった。

そして、死の間際だというのに満足そうな微笑を浮かべた男の気持ちも…

だからこそ、名無しさんの行動が理解出来なかった。




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