trance of Life〜ナギ〜

□Forewode・Life
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 〜その名をくれたあの日から 
        共に生きると決めたのだ〜



        ナギ

     〜trance of life〜





 First life:遭遇という名の・・・

 光など射し込まない、薄暗く荒れ果てた古寺の中。二人の人影が向かいあっていた。

「頼む!!助けてくれっ!!」
 
 一人は、服装こそ立派な生地で作られていたと思われる出で立ちの少女。
彼女は、乱れた不揃いの髪もそのままに、
小汚い床に額をこすり付け、
必死に懇願した。
この際つまらないプライドは邪魔なだけだ。
 しかし、
目の前の黒い短髪の男はあぐらをかき、
組んだ手を口元にあてたまま、眉をひそめただけで何も云わない。
 こんな醜態をさらしいるというのに、いったい何が不満だというのだろうか。

 ここはデリート・タウン(忘れ去られたれた町)。
その名のとおり、荒れ果てた放置地帯は朝も夜も関係なく、そこら中で無法者たちがやりたい放題暴れまわっている。
 
 その幅は広く盗みから殺しまで、
それこそ1から10までの犯罪があふれかえっているが、
空き巣を狙う盗賊に盗賊を狙う追剥、
そして襲うだけでは飽き足らず力にものを言わせる虐殺者がいれば、
その隙を突いて巻き上げていくずる賢い横奪者など、
まるで堂々巡りのようなヒエラルキーが出来上がっている。

 彼らがいるのはその町の片隅にある古びた寺の中。
とはいってもこの町自体がおもちゃ箱をひっくり返したようなジャングルそのものなので、
本当の片隅かどうかは定かではない。
 しかし、必死に頭を下げる少女からしてみれば、
膝をついてしても襲われず、ゆっくりと呼吸ができるこの瞬間こそ、
地獄ど真ん中(デリート・タウン)の片隅だと思わざるとおえなかった。

 なぜこんなにも酷い有様なのか、
率直に云えば止める者がいないからだ。
中には自由が尊重されるからだと美しく飾る者もいるが、
それは‘この世界’を生きがいにしている者たちだけだ。
 つまり、国を治める者から捨てられた町なのだ。
 強い者が生き残るのではなく頭のいい者でも優しい者でもない。
 人権も法律も剥奪されたこの町では、
立ち続けた者が勝者となる。
かわいそうだとか、
間違っているとか云う奴らから真っ先に消えていく。
それがデリート・タウンだ。
 
「で、俺に何をしろと?」

 男はがしがしと頭をかきながら、
突然自分のテリトリーに入り込み、
体を縮こませた少女を凝視した。                  
「仲間を助けてほしいそれと、
・・・盗まれた物を取り返してほしい」

 しれっとした言いようだったが、
少女はやっと男がその気になったのだと思い、少しだけ顔を上げる。
 しかし、彼は希望に体の緊張を解こうとした少女に容赦なく現実をたたきつけた。
 
「ふーん。‘貴’のお嬢様直々のお申し出とは、
俺もずいぶんと持ち上げられるようになったもんだ。
こんなところにまでご旅行とは・・・
暇つぶしか何かで?」
 
 それは、生々しいほどの皮肉。
これほどまでの屈辱はない。
 しかし、今頼れるのは金盞花の装飾を施した長剣を持つ目の前の男しかいないのだ。 
 
 「私は・・・」 

 少女はそれだけ云うとぐっと押し黙った。
ここまでくるのに気がおかしくなりそうな思いだった。
 
 自分がデリート・ダウンに放りこまれたと気づいたのはつい一週間前。
‘皇’である国から自分が属する騎士団の隊に出撃を命じられたからだ。
目的はデモを起こし始めた‘族’の抑制。
 
 しかし、‘族’国境にさしかかった瞬間何者らかによる襲撃を受け、
隊列を崩されながらも必死に抵抗するが、
隊員二十名のうち約半数が国境である谷底に追いやられ、
デリート・タウンに突き落とされてしまったのだ。
 
 『しまったっ!!罠か!!!!』

 気づいた時にはすでに遅く、
その内の一人に彼女も含まれていた。
 痛みに呻く隊員たちの声で意識を取り戻した少女は、
無傷とは言えないが重症からはなんとか逃れることができ、
奇跡的に命に別状はなく五体満足で助かることができた。
 
 しかし、生き残った者は自分を含めわずか四人。
その内一人が今自分たちのおかれている状況に青ざめ逃走。
あとの二人は足などを折る重症を負い、その場から動ける状態ではなかった。
が、少女に一つの提案を出した。
 
『お前だけでもここから抜け出すんだ、
早くこのことを国にっ!!』
 
『何を云っている!
そんなことできるわけがないだろう!!』
 
 他に方法があるはずだ、
この3人で地上に出ることができる方法が。
と、思考を巡らせるが、落ちてきた谷は思っていたよりも深く、
這い上がるのは不可能。かといって、道を辿っていくこともまた不可能だ。

 
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